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私は、あるネットニュースに目を瞠っていた。それは、2021年の秋のことだった。
20年前にホームレスだった男性が、ホームレスをしながらロシア語を習得し、その後、人生の逆転劇をおこした。当時、そのロシア語習得を助けた女性を探し出して、恩返しに、彼女のベストセラーとなった翻訳の出版を手助けした。その縁で2人が結婚したという美談だった。
その女性の名前に見覚えがあった。私が学生時代に愛した田島麻子だった。そして、そのホームレスだった男性は、私も一二度、田島麻子と一緒に見かけたことがあった。
麻子という女は、自分だけを愛していた我儘な女だった。あの女につけられた爪痕は、別れた後も、暫くは鮮やかに心の底部に残り続けた。ニュースで彼女の名前を見た時、胸の奥が疼いた。彼女を想い、腕に抱いた青春の思い出が生々しく蘇ってきた。
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