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麻子の母は、子供の時の二階の窓からの転落のせいで脳に損傷を負ったからだと思って泣いていた。そして、麻子の愚鈍さを詰った。
「うすらバカなの? はっきり返事をしなさい!」
麻子には、なんの為に生きているのだろうか?という疑問がわいた。ただ、ご飯を食べて、学校に行って、背が高くなり、ただ命を維持しているだけに思えていたと言う。
中学生になると、ストイックに何かにかける人生に憧れた。仕事に全身全霊を注ぎたい。身を美しく飾り、男性の目を惹きつけることにしか関心のない女にはなりたくないと言った麻子の目は、普段大人しい彼女らしくなく、ギラギラと輝いていた。
麻子が選んだ青春は、ロシア文学の翻訳家に成るために、ロシア語と格闘する一秒一秒を生きることだった。
クラブの伝統では、新入生を一学年上の先輩が指導した。ロシア文学を読むグループにいた私は、一学年下の麻子の指導をした。ロシア語を教えてやることもあったし、麻子とロシア文学を読み、語り合った。私は、高校時代に巡り合ったドストエフスキーに魅了され、ドストエフスキーの作品は、高校卒業までに全て読んでいた。
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