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麻子は、その頃、まだ遅読で、私に追いつかないことに苛ついていた。ドストエフスキーの短編を読み、麻子に書評を書かせた。しかし、知っていること全てを駆使して書いた麻子の書評には、行間がなかった。
「ゆとりがない文章だな。布地をケチってつくった服を着て、ぴちぴちできつきつで身動きできない小学生みたいだ」
「酷評ですね!」
「本当のこと言われて悔しいか?」
私を睨みつけて、悔しそうに麻子は言う。
「先輩はどうしてそんなになんでも知っているんですか?」
「そりゃ、お前とは読書量が違うぜ、俺は、ドストエフスキーもトルストイももう全部読んだ、お前は読む量が足りてないんだ。だからこんなもんしか書けない」
「そうですか。でも、先輩が読んだのは、翻訳でしょ! 私は、原語で読むから時間がかかるんです!」
「なあ、田島、まず、母国語で読めよ、そして、ロシア語で読め。そのほうがちゃんと分かるぞ」
「分かりました。読みます」
「もっともっと読めよ、俺と対等に語りあえるようになってくれ」
「……」
「どうした?」
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