愛の蹉跌

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「邪魔です。先輩は、私の行く手に傲然と君臨していて、私が到達したい高みの遥か上にいて……。邪魔です」 「邪魔とはなんだよ! 己が至らないのを俺のせいにするな!」 「……」  呆れた上昇志向と、とんだとばっちりだった。しかし、私は、この会話ではっきり麻子を意識するようになった。そして、麻子の私への憧れを感じたのは絶対に自惚れではないと思った。  麻子は、私への反発を露わに、猛然とロシア文学を読み始めた。私をギャフンと言わせることだけを目標にする読書など、なんの収穫ももたらさないだろうに、麻子には意固地になる癖があるようだった。 「田島、何を読んでる?」 「『白痴』です」 「お前、『罪と罰』は読んだのか?」 「はい、中学の時」 「『カラマーゾフの兄弟』は?」 「高校の時」 「そうか、もっと読んでおくべきものはあるけどな、まあ、『白痴』はいいよ。俺も好きだ」 「どこが好きなんですか?」 「ムィシキンン公爵の無垢さだな」 「無垢という割には、ナスターシャ・フリィッポヴナのような仇花を愛してしまうのはどうしてでしょう?」 「仇花? お前はそう感じるのか? 傲慢だな」
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