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去年の秋の写生大会で、四年生は好きな先生の絵を描いた。
その中で三上くんが描いた校長先生の肖像画は、他のだれよりもズバぬけてうまかったんだ。
メガネの奥にある校長先生の目がやさしく笑っている。
絵の中から飛び出して、今にも『おはよう』と声をかけてきそう。
あまりにも上手だから、県大会に選出されて、堂々の「県知事賞」にえらばれ、卒業するまで昇降口にかざられることになった。
わたしが初めて、三上くんの存在を知ったのは、その表彰式でのことだった。
本当に上手だなあと、あらためて、肖像画を見上げていたら。
「なに、見てたの? マリン」
教室に忘れ物を取りに行っていたウイカが昇降口にもどってきた。
ウイカを待っていたわたしは、三上くんの絵から目をそらして、なんでもないよと首を横にふる。
「明日からだっけ? ウイカがおばあちゃんのお家に行くの」
ウイカの家はパパとママが共働きをしている。
お姉ちゃんたちは、中学生と高校生で部活が忙しいから、ほとんど家にはいない。
だから、小学生のウイカだけが、毎年夏休みの三分の二をおばあちゃんの家ですごしているんだ。
「そうなの、もう一人でも留守番できるのにねー! あたしだけ、お盆まではおばあちゃん家にあずけられちゃう」
子供扱いしないでよね、と笑ってるけど、本当は全然イヤがってなさそう。
顔がとってもうれしそうなんだもん。
だって、一人で飛行機に乗って、九州のおばあちゃんの家ですごすなんて、一大イベントだと思うし。
家族とはなれて、ひと月近くすごすなんて、冒険しに行くみたいだもんね!
わたしには、そんなワクワクするような予定がないから、うらやましいなって毎年思っちゃう。
「戻ってきたら、いっぱい遊ぼうね。わたしのこと、忘れないでね、ウイカ」
「あたりまえじゃん、帰ってきたらすぐに知らせるよ! マリンの宿題、うつしに行くし」
「計画的にって先生が言ってたよね? まあ、どうしても間に合わなかったら手伝ってあげるけど」
「わーい、ありがと、さっすが学級委員のマリンさま。たよりにしてるー!」
「もうっ! 調子いいんだから」
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