死が二人を融かすまで

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 ステラとファルシには二人だけの秘密がある。  互いの右手を重ね合わせると、甲に星のような魔力痕が浮かび上がるのだ。  このことは二人以外の誰も知らない。  面倒を見てくれているシスターも、孤児院の仲間たちも、ステラとファルシを仲のいい二人だと思っているばかりで、なぜいつも一緒にいるのか不思議にも思わなかった。  二人とも、生まれた場所も違えば、捨てられた理由も違う。年齢も、ファルシのほうがちょっと上だ。本を読むのがすきなファルシと、体を動かすのがすきなステラ、タイプも違っていた。それでも、一日の多くの時間を共に過ごしていた。  丘の上の大樹の下、誰もいないところで二人はそっと手のひらを重ね合わせる。それぞれの甲に浮かび上がる魔力痕は七色の煌めきを帯びていて、世界のすべてがそこにあるようだった。二人とも、それがなんだかわからなかったけど、そんなことはどうでもよかった。ステラには彼が必要で、ファルシには彼女が必要だった。それだけですべてが満たされていた。  その頃、国を統べる王一族に、神官が、ひとつの託宣を奏上した。  ──星の子顕れしとき、王の御代瓦解せん    病床に伏せていた王は、他愛ない戯言と一笑に付すだけの正気を持ち合わせていなかった。  間も無く自身の後を継いで即位する幼い王子の障害になるものはすべて薙ぎ払おうと、国中から疑わしき“星の子”を捕えさせた。  託宣によると、齢一〇にも満たない、栗色の髪をした少年だという。そんな童は数多くいたが、お構いなしだ。王の号令の下捕まった者から、処刑された。抵抗した親はもろとも首を刎ねられた。  ステラとファルシの孤児院でも同様だった。栗色の髪をした10歳未満の少年は、ファルシを含めて何名かいた。しかし、旅の商人から騒動を知ったファルシは、髪を染める薬草をすり潰し、彼らに与えた。しかし、自分は使わず騎士に黙って捕まる道を選んだ。  もちろんステラは反対した。どうしてファルシだけ──泣き喚いて引き留めようとしたが、彼の決意は固かった。栗色の髪の10歳の少年なんていうありふれた存在が一人もいないなんて、怪しまれてしまう。だから自分が行く必要があるのだ、と。  それでも聞き分けないステラの頭を撫でて、ファルシは笑った。 「大丈夫、また会えるよ」と。
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