14人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
2.
ブッチーの恩人にしてわたしの同居人、柴本光義は便利屋だ。
さまざまな依頼をだいたい法に反しない範囲で請け負い、解決することを生業としている。
彼のもとにはおかしな依頼が舞い込むことが多かったが、今回はいつもにもまして妙だった。
「空き屋の除霊? 掃除じゃなくって?」
路肩に停めた軽トラックの中で、端末を前にブッチーとわたしは顔を見合わせた。
ド派手なメイクを施した顔いっぱいにハテナマークが浮かんでいる。
彼女とはまた別の協力者が見つけてくれたらしい柴本と依頼人とのやりとりの記録には、何やらオカルティックな文言が並んでいた。
市内にある空き屋に悪霊が棲み着いている。除霊を手伝ってほしい。
独特な言い回しでわかりづらい文面は、要約するとそんな感じの内容だった。
依頼人の名は天行。おそらく本名ではないだろう。
「報酬額、凄いッスね」
なんだこれ。思わず声が出た。
提示されていたのは普通のサラリーマンの月収で数ヶ月に相当する額である。にもかかわらず、拘束時間はわずか半日程度だ。
「もしかしなくても師匠、金に目が眩んだッスね」
でしょうねー。やる気ない感じの相槌が口から漏れた。呆れて脱力しているのはブッチーも同じらしい。
「嗅覚を過信してるから、こんなのに引っかかるんスよ。『おれは何だって嗅ぎ通せる』とか自慢しちゃって」
あ、今の言い方ちょっと似てたかも。
ともかく、居場所が分かったのは大きな成果だ。ただ、そこは同じ市内だけれども少々離れた場所にあるようだった。直線距離では大したことはないけれど、途中の道は入り組んでいる。その上、時間帯によっては渋滞になる場所もいくつかあった。今は夕方で、退勤して家路を急ぐ車で一杯となれば尚のことだ。
「混むのはしょうがないッスね。早いトコ行きましょか」
新たな目的地を目指して走り出した軽トラックの中で、わたしは柴本が残したメッセージを思い返す。
悪霊って何だ? 迷信の類にしか思えないものが、実在するというのか?
最初のコメントを投稿しよう!