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3.
湧き上がってくる疑問に頭の中が埋め尽くされそうになった。
それを解消するため――もとい、同居人が直面しているであろうトラブル解決の糸口を探らねばなるまい。
頭の中で、左手に止まった蝶に命令を送る。
黒い翅のところどころを螺鈿細工のように煌めかせるそれは、わたしの網膜に直接投影されており、物理的には存在していない。
人間の脳と機械/情報ネットワークをダイレクトに接続する技術。人間が他の人類種族に対する優位性を持ちつづけるための機構を実験的に組み込まれ、けれども研究者たちが見込んだ結果を出せなかった失敗例。
それがわたし、鴻那由多と名乗る個体である。
蝶――システムを扱えるようになる過程でわたしが作り出した仮想の存在は、重さのない翅を羽ばたかせながら、ふわりと宙に舞って消えた。
運転中のブッチーさんに居眠りしていると思われないように気をつけながら――ちょっと情けない――、悪霊や幽霊、怪異に関する情報の収集を開始した。
蝶が運んでくる情報に意識を集中させていたところで、軽トラックがガタンと大きく揺れた。
「おっと!」
そこそこ年期の入った中古のトラックはサスペンションもヘタりかけているようで、アスファルトがひび割れてワイルドな感じになっている道路の様子を実にしっかりと伝えてくれている。
揺れる車内で本を読むと酔うのと同じで、まったく備えていなかったせいで気分が悪くなった。
「あ、吐くンならこれ使って。この前掃除したばっかなんで、汚さないで欲しいッス」
ブッチーが差しだしてくれたコンビニ袋を受け取り、不慮の事故に備えて袋の口を開けて膝の上に置いた。
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