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4.
天行と名乗る男が柴本を訪ねたのは、一週間くらい前であった。
長く髪を伸ばし、仏僧のような墨染めの衣を纏った人間種の男性で、やせ形で背が高く、クネクネとした物腰が印象的だったという。
「ンフフフ♡ 評判はネット上で拝見しておりましたがン♡ ン噂以上の用ですねン♡」
「はぁ。そいつぁどうも」
合って早々浴びせられた粘着質な視線が気持ち悪かったと、後に語ってくれた。
悪霊退治の助手をやって欲しい。本人と会うより先に送られてきたメールには、そのような内容が記してあった。
最初は断ろうと思ったらしいが、提示された報酬の破格さから、とりあえず話だけでも聞いてみる気になったのだそうだ。
結論から言えば、それが間違いだったのだが。
「えーっと、今回のご依頼は『空き家に棲み着いた悪霊退治』とのことですが」
「ハイ♡ お間違い御座いませン♡」
顔全体に笑みを貼り付かせた僧形の男を、柴本は胡散臭いと思いながら見た。
けれども、うっすらと白檀の香を纏った男からは、怒りや憎しみといった攻撃的な感情の匂いは一切感じられなかった。
異種族恐怖症の人間たちが好んで使う、獣人の感覚を狂わせる香水の鼻の奥が痛くなる感じもなかったようだが、この辺りは人間であるわたしには今ひとつピンと来ない。
そんなわけで天行と名乗る男に対し、柴本は早々に警戒を解いてしまったのだった。
「あー、おれはその筋の専門家じゃないんですが」
「ンフフフフ♡ ンまったく問題ございませン♡ ン本当に危険な場所はン♡ やつがれがお引き受け致します故ン♡」
「やっぱり危険なんですね」
「ン残念ながら♡ 封筒貼りの内職やお刺身にタンポポ乗っけるバイトと同じくらい安全とは申し上げることは出来ませぬ♡ 危険手当も含めたお値段と考えていただければン♡」
「うーん……」
提示された金額を見る。
数ヶ月かけて稼ぐのと同じ額であった。にもかかわらず、拘束時間はわずか半日足らず。
目の前の男からは悪意や嘘の匂いは微塵も感じられなかった。
「あ、お支払いの方法は?」
待ってましたとばかりに、僧形の男はアタッシュケースを机の上に乗せ、ぎっしりと札束の詰まった中身を柴本に見せた。
「現金も♡ 可能でございますン♡」
「よし、お約束の額で引き受けましょう。あ、現金決済でお願いします!」
話を終える頃には、柴本はすっかり金に目が眩んでいた。
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