宝石色のモラトリアム

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それから何か起きるかというとそれはなかった。移動教室も休み時間も彼女には仲間がいたし私にはいなかっただけ。 5月。初めての席替えでまた近くなったときは言葉を交わしたけど。よくあるうわべだけの一往復だ。 でもそこから潮流が変わった。何かの折に話を吹っかけてくる。読書に集中できない。それは文字の踊りが強制中断されるからじゃなくて、さりげなく返答を考えているからだと気が付いた。いつでも話しかけられる想定で待ってる。 彼女がやけに気になりだして、惹かれていると気づくのに時間はかからなかった。 だから……大胆になるって指摘されて心臓が跳ねた。 臆病な私は無難な態度をとり具材交換とかいう謎の通過儀礼をしただけ。自分で持ちかけたのに照れている愛原さんは可愛かった。
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