宝石色のモラトリアム

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そして会話が……続かない。 「あ!えーと、あたしたちの苗字って似てるよね!ほら愛原と藍川!去年あたし出席番号一番だったけど、今年は負けちゃった~。」 「そうだね。」 え??こちとら能力の最大値コミュ力ぞ???いやいやこれはあたしのせいじゃない気がする。だって何振ってもレスポンスが微妙なんだもん。陰キャ恐るべし……。 「……マスカラ。」 「ん?マスカラ?あ、昨日の?」 「愛原さんは確かにブルべだと思う。……ちょっといい?」 「え……。」 急に日光が遮られる。 目の前にはいつも斜め後ろからしか見れなかった顔。 綺麗。え、背高くない?唇薄いんだ、口は重いのに。待ってこの子の性別ってどっちなんだったっけ……。 その細い指があたしの頬と髪に順番に触れて。 「うん、やっぱりそう。手首の血管とかでも分かるらしいけど。あとリップの色も似合ってるし。」 「あ、ありがと……。」 予告なく、いや、予告はあったか。近くなった距離にドギマギしてしまう。触られた頬が熱いのは、五月上旬の気温じゃない、と思う。 「パープル……は無難だけど愛原さんならもっと冒険してもいいんじゃない?ネイビーはこれからの季節いいよね、雨雲みたいで。でもそのアイシャドウに合わせるなら思い切ってピンクとか……っ?!」 がっしと掴んだ両手が一瞬揺れ、その驚きが伝わってくる。 「メイク詳しいの?!」 「あー、詳しいっていうか……まあ、見せてもいいか。」 「?」 少しの逡巡の末かき上げた髪。 その耳には……ピアス?!いくつもついてる。 「いっぱい……。」 「そ、いっぱい。」 小さいのとかちょっと垂れ下がってるのとか、あたしの知識が少ないから形容できないけど、なんかこう……。 「尊い……。」 「え……?」 熱視線に押されるように一歩引いた藍川さん。遮られていた日光が一歩踏み出したあたしの顔に当たってる。 「なんで隠してるの?!もったいないよ!ってかもっと仲良くなろ?!ほらもうお友達!!」 「陽キャ怖……。」 差し出した手に戸惑いながら触れる藍川さん。その手をぐっと握りぶんぶん振る。 「きゃ~尊い!!たまに一緒に帰ろうよ!教室でももっと話しかけるね!藍川さんじゃなくてさ、真凛って呼んでもいい?!」 「それはダメ。」 「え。」 盛り上がった気分に氷水をぶっかけられたみたいだった。ブラウンのマスカラがたまたまくっついて、私の目が見開くのを邪魔した。 「え、えと、ごめん、ね……。」 「その名前は、女の子らしくって両親がつけたやつだから、嫌い。……驚かせてごめん。」 力の抜けかけたあたしの手を藍川さんが握る。その力に促されたように一瞬であたしの気分が上を向いた。 「じゃあじゃあリンはどーお?中性的だし、ほらあたしサンだからちょっと似てるし。」 「え、似てる……?」 「似てる似てる!!リンリンでもいいよ。」 「それパンダ。……陽キャ怖……。」 「ねー!お寿司行こーよ!」 「新作パフェだっけ?」 「聞いてたの?!」
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