2人が本棚に入れています
本棚に追加
そして会話が……続かない。
「あ!えーと、あたしたちの苗字って似てるよね!ほら愛原と藍川!去年あたし出席番号一番だったけど、今年は負けちゃった~。」
「そうだね。」
え??こちとら能力の最大値コミュ力ぞ???いやいやこれはあたしのせいじゃない気がする。だって何振ってもレスポンスが微妙なんだもん。陰キャ恐るべし……。
「……マスカラ。」
「ん?マスカラ?あ、昨日の?」
「愛原さんは確かにブルべだと思う。……ちょっといい?」
「え……。」
急に日光が遮られる。
目の前にはいつも斜め後ろからしか見れなかった顔。
綺麗。え、背高くない?唇薄いんだ、口は重いのに。待ってこの子の性別ってどっちなんだったっけ……。
その細い指があたしの頬と髪に順番に触れて。
「うん、やっぱりそう。手首の血管とかでも分かるらしいけど。あとリップの色も似合ってるし。」
「あ、ありがと……。」
予告なく、いや、予告はあったか。近くなった距離にドギマギしてしまう。触られた頬が熱いのは、五月上旬の気温じゃない、と思う。
「パープル……は無難だけど愛原さんならもっと冒険してもいいんじゃない?ネイビーはこれからの季節いいよね、雨雲みたいで。でもそのアイシャドウに合わせるなら思い切ってピンクとか……っ?!」
がっしと掴んだ両手が一瞬揺れ、その驚きが伝わってくる。
「メイク詳しいの?!」
「あー、詳しいっていうか……まあ、見せてもいいか。」
「?」
少しの逡巡の末かき上げた髪。
その耳には……ピアス?!いくつもついてる。
「いっぱい……。」
「そ、いっぱい。」
小さいのとかちょっと垂れ下がってるのとか、あたしの知識が少ないから形容できないけど、なんかこう……。
「尊い……。」
「え……?」
熱視線に押されるように一歩引いた藍川さん。遮られていた日光が一歩踏み出したあたしの顔に当たってる。
「なんで隠してるの?!もったいないよ!ってかもっと仲良くなろ?!ほらもうお友達!!」
「陽キャ怖……。」
差し出した手に戸惑いながら触れる藍川さん。その手をぐっと握りぶんぶん振る。
「きゃ~尊い!!たまに一緒に帰ろうよ!教室でももっと話しかけるね!藍川さんじゃなくてさ、真凛って呼んでもいい?!」
「それはダメ。」
「え。」
盛り上がった気分に氷水をぶっかけられたみたいだった。ブラウンのマスカラがたまたまくっついて、私の目が見開くのを邪魔した。
「え、えと、ごめん、ね……。」
「その名前は、女の子らしくって両親がつけたやつだから、嫌い。……驚かせてごめん。」
力の抜けかけたあたしの手を藍川さんが握る。その力に促されたように一瞬であたしの気分が上を向いた。
「じゃあじゃあリンはどーお?中性的だし、ほらあたしサンだからちょっと似てるし。」
「え、似てる……?」
「似てる似てる!!リンリンでもいいよ。」
「それパンダ。……陽キャ怖……。」
「ねー!お寿司行こーよ!」
「新作パフェだっけ?」
「聞いてたの?!」
最初のコメントを投稿しよう!