宝石色のモラトリアム

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愛原珊瑚。クラスの陽キャ。一軍の中では割とおとなしい方。 対して私。クラスの陰キャ。カースト無所属、端っこにいるやつ。 二年の始業式の日、教卓の前で駄弁っている何人かを見てうんざりした。学校生活謳歌してそう。 運悪くその近くに座っている黒咲に同情ししつつ、文庫本を開く。 「ね!お名前なんて言うの?」 突如後ろから声が降ってきた。……背中を撫で上げられたの方が正しいかもしれない。気づけばかなり進んでいた本を閉じた。 人違い、というか勘違いの可能性に怯えつつ後ろに向く。果たして後ろの女子は満面の笑みで私の返事を待っていた。さっき教卓前にいた? 「藍川、ですけど……。」 「敬語じゃなくていいのに!あたし愛原珊瑚、よろしくね。」 「愛原さん……。」 「さん付けとか苗字呼びとかじゃなくていいのにー……、まっいっか。」 自分の意見を押し付けない。好感度メーター上昇、少しだけ。 「あーあ、”愛原”で出席番号1番だったのになぁ。3文字目で負けるなんて……。」 「悔しい?」 「そこそこ。さっきもアキラとミドリと話してたんだよ、まあ二人にはあんまり理解されなかったけどさぁ。ていうか、」 愛原さんが目線を教室の対角線上にやる。さっきの二人は前後の席でまだ喋っていた。若葉くん……同じ中学だったような。 「アキラとミドリは山吹と若葉だから前後であたしだけ疎外感……。学生生活ー……小1からだから、11年目?ずっと一番だったのにさ~……。」 机に乗せた腕に顎をのっけてむうと頬を膨らませるその子は贔屓目を差し引いても可愛かった。 「ま、背の順も一番前だからいいんだけどお。」 そのうちHRが始まり、自然に会話は途切れた。ちなみに担任が来ても彼女は周りと喋り続けた。
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