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喫茶ロブソン。その店は駅前の通りから一本入った裏道にある。
「はぁい、いらっしゃぁい」
白いパイン材のドアを開ければ、すかさず店主のルミコさんの鈴を転がすような声がする。
この場合「鈴を転がすような」は慣用句とは違って、響きがコロコロしている、という意味だ。
猫が喉を鳴らしているときみたい、というか、どんぐりが地面に散らばったときみたい、というか。
不思議なその響きはルミコさんのなめらかな話ぶりとあいまって、ロブソンの中を鈴のように自由に転がる。
「あらあ、マキちゃん。こんばんは」
私を見とめたルミコさんはニコッと目尻に皺を寄せた。
喫茶ロブソン。ドアは白なのに中は床も調度品もウォルナットの焦げ茶で、ちぐはぐだけど居心地のいいこの店を、私は越してきたばかりのときに偶然見つけた。
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