喫茶ロブソン

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「来るんですか、天狗」 「来ないように下駄割った看板で威嚇してみたんだけどねぇ」 「ああ、あれそういう意味なんだ」 「もう、別れてから何年も経ってるのに」 「いいんじゃないですか、来るくらい」 「そうかしら。それでね、私、また強引に攫われないようにマーシャルアーツ始めてみたの」 今夜もルミコさんのおしゃべりはコロコロ転がる。  ルミコさんは嫌がっているけど、まだ彼女に未練があるという天狗の気持ちも私は無下にはできない。  もし、攫っちゃうほど愛する人の人生と自分の人生がふたたび交わる可能性があるとしたら下駄を割られたくらいじゃ、めげないかもしれない。「天狗、ラザニアが好きなのよ」と微笑むルミコさんも実はまんざらではなさそうに見えて、お店に通っちゃうのも、さもありなん、と思う。 「ところでマーシャルアーツってなんですか」 「ロシアの格闘技よ。いい機会だし、魯武存の、魯、ロシアの露に変えようかしら」 「ちなみに元の魯はどういう意味から?」 「あらやだ、うち飲食店よ?美食家の魯山人に決まってるじゃない」 「決まってましたか」 「魯迅の魯でもあるわ。私、中国で野生のパンダの出産に立ち会ったことがあるの」  困惑する私にルミコさんはからりと笑った。
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