喫茶ロブソン

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「私、見栄はってたんです。その大学、いわゆる名門のお坊ちゃん大学で、連絡先といえば携帯電話が主流だから、『自宅に固定電話がある家はお金持ちっぽく見えるかも』って変な思い込みで願書に家の番号書いちゃったんです」   「あらぁ」  ルミコさんが苦笑いする。私もだ。そんなバカな話、苦笑するしかない。  合格者発表のページに自分の受験番号が載っていなかった絶望は今でもはっきり覚えている。  それまでそこそこ順調な人生だったから、あんな風にきっぱり「あなたは要りません」と言われてかなりショックだったし、それまでの努力も私の人格も否定されたようで、「こっちこそあんたなんか要らない!」と一気にやさぐれた。  補欠欄に番号を見つけてはいたけど、もはや忌むべきその受験番号は二度と見たくなくなっていたし、第一志望よりだいぶ劣る滑り止めの大学に私は進学を決めた。 「でもやっぱり、行けるなら第一志望に行きたかったなって。私がダラダラしている間、後にも先にも家の電話が鳴ったのはその一回きりでした。だから、もしかしたらあれは?って思ったらすごく後悔したんです。うまくいかないことがある度、あの時電話に出ておけば、今頃もっと違う道を歩んでいたかもしれないって」 「なるほどねえ」  ルミコさんがお皿のタタミイワシをつまむ。  持ち上げられた小さなタタミイワシの無数の目に見つめられたようで、私は急に恥ずかしい。 「あのね、マキちゃん。私、天狗と結婚したことがあるの」 おもむろにルミコさんがしゃべりだした。
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