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「はあ」
「やだ、驚かないのね」
「驚いてますよ」
驚いているけど、なんとなくルミコさんならそういうこともあるような気がして受け入れてしまっただけだ。
私のリアクションがつまらなかったせいか、ルミコさんはふん、と鼻を鳴らす。
「うちの実家は田舎でね。ある日突然よ、学校の帰りに天狗に攫われて今日から嫁だ!って強引に。私も若かったから、そういうシチュエーションに酔っちゃってさ」
「いわゆる神隠し、的な?」
「そうね。親も友達もすごい悲しんで私を探してたけど、ごめんねみんな、でも私は永遠の愛に生きるのって最初は山で楽しく暮らしてた。私にとっては純愛だったからねえ」
「あのう、学校帰りってルミコさん、いくつだったんですか」
「マキちゃんがコタツで寝てるよりは少し若いときよ」
「天狗って実在するんですか、その、天狗を騙る変質者だったり、とか」
「ううん、本物なのよ、あの役立たず」
役立たず。
とはいえルミコさんの夫であった天狗は天狗らしい神通力は持っていて、空を飛んだり、大きな団扇で風を起こしたりはできたという。
「そりゃ、お姫様抱っこで空を飛んだりするのは楽しかったわよ。でもそれだけなの。天狗って畑で野菜を作ったり、車を運転したり、実用的なことは何もできないのよ。毎日クマと相撲とって遊んでる夫なんて尊敬できないじゃない。最後は彼の履いてる下駄の音がするだけでイライラしちゃって、こりゃダメだって別れたわ。そんなもんなのよ」
「そんなもん、とは?」
「マキちゃんは天狗と結婚ってどう思う?」
「ドラマチック、というか、特別というか」
「でしょう?でもね、どんなに特別でも別れるときは別れるの。結婚するときは絶対こうだ!愛のために家族も友達も捨てる!私にはこの道しかない!って思いつめたけどそんなことはなかったのよ」
タタミイワシを、ばりん、とルミコさんが齧った。
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