桜の時期に思う事

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父は漁師で、母は専業主婦だ 僕はひとりっ子で、父の漁師を継がなくていいものの、やっぱり老後の事を考えると両親を置いてこの町を出ていく訳にはいかない それは高校生の時から思っていた。 僕は両親がいる内はこの町で生きていく そう思っていたからこそ、東京の大学に行かせてもらったんだ 僕はこの町で生きていくなら一生ひとりだ 誰とも恋して結婚することは無い この狭い町で、僕は誰かに心を許すことはないから だから4年間だけ恋をしてみたくて、東京に行きたかった 僕はその気持ちだけで、必死に勉強して東京の大学に進学した そんなに有名な大学ではなかったけれど、田舎から東京の大学に合格するのは至難の業で、町ではちょっとだけ噂になった。 「僕を働かせてくれませんか」 僕は大学に慣れてきた頃、新宿二丁目のBARに行き、働かせて欲しいとお願いした。 そのBARは落ち着いたBARで、ゲイバーでも賑やかな所ではなく静かに飲むようなオシャレなBARだった 程なくして毎夜のように僕はそのBARで働き、 3ヶ月が経った頃、あの人が店に来た。 「君、新人さん?」 「あ、はい。3か月前に入りました。」 「名前は?」 「あ、はい。カズマです」 「カズマくんか。可愛いね」 マスター『長嶺さん、お久しぶりですね。お元気でしたか?』 「あ、マスター久しぶり。4か月間仕事で中国に行ってたから。僕が来ていない間にこんなに可愛い子が入ってたなんて知らなかった」 マスター『長嶺さんのタイプだと思ってました。 カズマくん、長嶺さんはうちのお得意様で、とても顔が広い方でね。うちの店をたくさん紹介して広めてくれている人なんだよ』 「そうなんですね。よろしくお願いします。」 「カズマ君気に入っちゃった。これから毎日顔出すよ」 マスターに長嶺様と呼ばれていた男性は ひと目見て普通の人では無いと思った。 見た目は30後半で黒髪できちっとムースで固めていて スーツもきっと凄く高いブランドのもの。 時計も高そうだし、とにかく上品でカッコイイ きっとどこかの社長さんなんだと思った。 お金を持っているとか、そういうことよりも 僕はその大人の雰囲気と、素敵な見た目にひとめぼれしてしまった。
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