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「今年もすごい人ですね」
「コロナも落ち着いたし、みんなうずうずしてたんだろうね。あ、佐々木君、休憩入らなくて大丈夫?」
「はい、大丈夫です。田中さん行ってきてください」
「そう?じゃあ、一服してくるわ」
「はい」
僕と田中さんはこの町の役場のまちづくり推進課で働いていて、
この時期になると一日中見回り係になる
北海道の町の中でもとりわけ有名でもなく、北海道に住む人でさえ、町の名前を言ってもすぐに場所がわからない地味な町だけど、
このゴールデンウィーク前後だけは唯一全国から観光客がやってくる。
桜が有名な町。だから桜が咲くこの1週間だけは賑わいを見せる
牧場と海と山しかないのどかで静かな町に観光バスや色んな地域のナンバーの車やバイクがやってきて、唯一僕達は忙しく町の平和を守ろうと忙しなく動くのだ
僕は毎日朝から夕方までプレハブの前に出て、変な人がいないか、ルールを守らない観光客がいないか見回りながら数時間おきに桜の様子をスマホで撮影して、町のホームページやSNSで桜の様子をアップしている
僕が東京からこの町に帰ってきてから10年が経った
元々大学を卒業したらこの町に帰ってくるつもりで東京の大学に行き4年間を過ごした
僕はあの頃から10歳も歳を取り、役場に入った頃はチヤホヤされたけど、今はもうおばさまたちにもチヤホヤもされなくなった
僕はこの町でひっそりと生きている
恋はしていない
10年前に東京から戻ってきてから僕は恋をしないようにしていた
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