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EP 12
「え、どういうこと? 私の作った玉子焼きを食べたいなんて、どゆことなん?」
ぶつぶつひとりで呟いてますけど、安心してください、ちゃんと仕事してますよ。
(「食べたいの!」「……食べたいの?」「食べたい食べたい食べたい」「わ、わかったわかった」)
もう一度脳内再生。あの寸劇イッタイゼンタイなんだったの?
「そんなにお腹すいてたんか……それとも味覚勝負でマウント取りたいだけとか?」
しかも、「また一緒に弁当食っていい?」ときたもんだ。
私は書類を整えていた手を止める。
上からの評価も売り上げも上々だった加湿器の後にリサーチしているのは、キースタンド。鍵をかけられるし、スマホの置き場にもなるスグレモノだ。
ただ、デザインでビビッとくるものがない。
私がデスクにいる香山チーフに相談を持ち掛けようとして、振り向いた瞬間。
「なになに相談ごと? 繭香、今なにリサーチしてる?」
イスをガガガーと鳴らしながら、スッ飛んでくる。
「え、は、っと今はキースタンドを……」
「キースタンド! イイネ -_-b !! でなに? デザイン? デザインで悩んでるの?」
「そ、そうだけど……」
普段からスカしていて、そんなにべらべら喋らない八千穂なのに、屋上で弁当を食べた日以来、めっっっっちゃ喋りかけてくるのよこれが。
どうした!! 八千穂類!!
「流行ってるのは、ナチュラル系かな。あ! これ良いんじゃね? このリーフ型のやつ!!」
私のPCの画面を指差してくる。その瞬間、八千穂の肩が私の肩に、とんってくっついた。
んーなんじゃこりゃ。
「私はさ、北欧風みたいなデザイン好んじゃうから、これなんか好きなんだけど……でも北欧ファブリックとかの流行、もう終わってるからなあ」
「流行は確かに終わってるけど、北欧は根強い人気があるから。イケると思うけど……じゃあこれは?」
さすがの八千穂。選んだ商品は、北欧とモダンを足して二で割った感じの、オシャレなキースタンド。センスが良い。
ふーんこれねえと思っていたら。
「おい。八千穂ー。花崎の企画書だぞ。おまえのチョイスでどうする」
香山チーフお叱りの声が飛ぶ。
「ちっ」
え? なに今の? 八千穂、舌打ち? 舌打ちしました?
香山チーフが近づいてくる。
「どれどれ? 花崎、悩んでるんか?」
「はっ! ふぁい」
立ったままデスクに腕を立て、私の後頭部に、香山チーフの胸が触れる。バックハグみたいな体勢に、私は少しだけ恥ずかしくなってしまい、変な返事をしてしまった。いやいや、ハグしてないからバックハグではない。ハグってないから、ギリ。
「え、あ、き、機能性重視すると、デザインが限定されてきちゃって。これとこれ、これで迷ってます」
「ふーん。俺はこれが好みかな」
と、握っていたマウスの上から手を包み込まれ、そのままクリック。仕様ページへ飛ぶ。
ふお! …………?
「ちょ、これ花崎の企画書ですよ!」
ってかセクハラじゃねえのかよそれ、八千穂が声を抑えながら小さく舌打ち。
「えー、花崎迷ってるって言うからさ。俺はこれが好きって言っただけじゃん」
「だったら、俺だってこれが好き」
「うわ、だせー」
「なんだって!! なんならこれだって、だせえっすよ」
頭上で会話っていうか罵声? が飛び交っている。
「……あのう……自分で決めます」
すぱっと一件落着。です。
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