EP 13

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EP 13

(なんなんだよアイツ) バックハグ!! セクハラだろあれ。ギリハグってないけども! でもマウスのあれは完全にアウトだ! 恥ずかしそうに俯く繭香の横顔。ほんのり赤くなっていることに気づいて、俺は頭を殴られたようなショックを受けてしまった。 動揺のちに嫉妬。だから、言わんでいいことまで言ってしまう。 「香山チーフって、離婚してから半年も結婚指輪つけてたってことはさ、元嫁に未練ありありってことだよな」 弁当を一緒に食べている時だ。この日、華副社長は所用があって不在。繭香と二人きり、千載一遇のチャンスだというのに、俺の口からは嫌味しか出てこない。 「……そうなのかな」 呟きながらウィンナーをもぐもぐしている繭香が、ほけーっと空を見上げているのを見ると、無駄に不安が募ってくる。 「だって離婚したらみんな指輪外すだろ。指摘してから慌てて取るなんて、おかしいにも程がある」 「そうなのかな」 「そのうち復縁するんじゃね? 元嫁と再婚って話もよくある話だろう?」 いやそんな話、ほとんど聞かんし。でもいい。とにかく、牽制しなければ。 「だいたいなんで離婚したのかってことだよな。原因が重要なんだよ。浮気か、実は性格悪くてDVとかってな?」 繭香は相変わらず、ほけーっとしながら、レタスをもしゃもしゃ咀嚼している。 「元嫁が?」 「んなわけねえだろ! 香山チーフがだよ!!」 「香山チーフは違うでしょ」 「繭香が知らないだけで、あいつ結構ネチネチしてっぞ。俺、いびられてるもん」 「はぁ? そんなことないって」 「そんなことある」 繭香が空になった弁当箱のフタをバンッと閉めて、カバンへと放り込んだ。 「そんなことない。香山チーフはいつだって優しいし、ドアとか開けてくれて紳士だし、重い荷物だって一緒に運んでくれるし、相談に乗ってくれるし、仕事にもプライドもって取り組んでるし、ってか仕事できるし。そんな人が性格が悪いなんてこと絶対にあり得ない。八千穂はなんでそんなに香山チーフを目の敵にしてさ、あれやこれやと悪口を言うわけ?」 「わわ悪口ってわけじゃ……」 「いーや悪口だね。知ってる? もう三日目だよ? 三日! ここで弁当食べながら悪口ばかり。どっちが性格悪いかって? はっきり言っていい? 八千穂! あんたの方だよ!」 「あっ繭香っ」 すくっと立ち上がると、さっさと帰っていってしまった。 やばい。俺、三日も頭おかしかったん? 「あーーーまじかあ。嘘だろ、失敗したあーーー」 抱えた頭が徐々に冷えてくる。必死すぎる自分が怖い。怖いけれど、香山チーフへの限りない嫉妬のおもむくままに、やってしまったのだ。 「逆効果じゃねーか」 やばいやばい。 (繭香、香山チーフのこと、どう思ってるんだろうな……ってか、すっげ庇ってたよなあ……) 俺←嫌い 香山チーフ←好き 単純な構図が頭に浮かぶ。だめだだめだだめだ。 「うわあ怖えぇ」 まだ空になっていない弁当箱のフタを閉めて、大きなため息をついた。
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