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EP 14
『人のふり見て我がふり直せ』
うおおおおおーと私はダンゴムシのように丸くなり、アパートの自室にて遠吠えをあげている。
なぜかって言いますとね、気がついた訳ですよ。読んで字のごとく。人のふり見て我がふり直せってね。
ことの発端は、お昼ごはん時、屋上で八千穂と過ごした三日間。確かに私は、八千穂のしつこいくらいの香山チーフ絡みの愚痴を聞いていましたよ。
ええ聞きました。そして、もういい加減にしろってな感じで、怒ってその場を離れましたよ。
仕事ができすぎる上司ってのが気にくわないんだろうけど、今まで連戦連勝だった八千穂の企画書、何件かボツにされたって聞いたから、きっとそれを根に持っているっていうのもあると思う。
八千穂の香山チーフへのあの敵対心。
尋常じゃないと、ふと考えた時。
デジャヴかと思いました?
そう。
私が八千穂に対して燃やしている嫉妬の炎と同じではないかと。
はい。
私もそう思った次第です。
「……なんかみっともないかも」
第三者の乾いた視線で見てみれば、よくわかる。
私は自室の床でのダンゴムシの体勢が辛くなってきたこともあり、ベッドによじ登って布団の中へとごそごそ入ろうとした。
そこで目が止まる。ベッドサイドのテーブル、スタンドの隣。某人気アニメとのコラボコーヒー缶。八千穂にもらったやつだ。
「最初はこんなの飲んじゃえって思ってたんだけどな……」
2缶、お供え物的に並べて置いてある。
屋上で弁当を食べるようになってから、追加で1缶貰った。どこで購入したのか問えば、まあそこら辺でむにゃむにゃ……と、お茶を濁していたけれど、私が住んでいるこの町は日本地図でいうとブラックホールか、それとも磁場が歪んでいるのかというくらいに、とにかく世間の流行に無頓着な町で。
知っているのだ。このコラボ缶、車で30分先のスーパーにしか売ってないってことを。
「八千穂ってば、どうしてそんな所まで……」
まあ買い物ついでにって感じだったんだろうけど。
車を持っていない八千穂だから、きっとチャリで向かったはず。ってか私もチャリで行こうとして、断念したからね?
そこで、私ははっとした。
そういえば会社の事務、八千穂の取り巻きの女の子はみな、車通勤している、と。
その中に八千穂の彼女がいたとすれば、もしかしたら車で送ってもらったのか、もしくはドライブがてらでーだったのかもしれない。
モヤっとした。なんかわかんないけど、胃の辺りが気持ち悪くなる。
「昼に食べた天ぷらにでもあたったかな」
違ーう。そうじゃなかった!
『人のふり見て我がふり直せ』だった! 冒頭に戻らなくちゃ!
そんなわけで私は、過剰なまでな八千穂への嫉妬心にフタをしようと心に決めた。
八千穂の香山チーフへのイヤミといったら、まあ聞くに耐えないからね。
「あー私ってば。ハタから見れば、あんなにも醜かったのかぁ」
なんて、落ち込んだりうだうだ考えていたら、睡魔が踊り出す。
(……八千穂の彼女とかって、どんな人なんかな……)
夢見心地の中でもなぜかモヤりながら、私は朝までぐーすかぴーと眠った。
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