EP 14

1/1
前へ
/32ページ
次へ

EP 14

『人のふり見て我がふり直せ』 うおおおおおーと私はダンゴムシのように丸くなり、アパートの自室にて遠吠えをあげている。 なぜかって言いますとね、気がついた訳ですよ。読んで字のごとく。人のふり見て我がふり直せってね。 ことの発端は、お昼ごはん時、屋上で八千穂と過ごした三日間。確かに私は、八千穂のしつこいくらいの香山チーフ絡みの愚痴を聞いていましたよ。 ええ聞きました。そして、もういい加減にしろってな感じで、怒ってその場を離れましたよ。 仕事ができすぎる上司ってのが気にくわないんだろうけど、今まで連戦連勝だった八千穂の企画書、何件かボツにされたって聞いたから、きっとそれを根に持っているっていうのもあると思う。 八千穂の香山チーフへのあの敵対心。 尋常じゃないと、ふと考えた時。 デジャヴかと思いました? そう。 私が八千穂に対して燃やしている嫉妬の炎と同じではないかと。 はい。 私もそう思った次第です。 「……なんかみっともないかも」 第三者の乾いた視線で見てみれば、よくわかる。 私は自室の床でのダンゴムシの体勢が辛くなってきたこともあり、ベッドによじ登って布団の中へとごそごそ入ろうとした。 そこで目が止まる。ベッドサイドのテーブル、スタンドの隣。某人気アニメとのコラボコーヒー缶。八千穂にもらったやつだ。 「最初はこんなの飲んじゃえって思ってたんだけどな……」 2缶、お供え物的に並べて置いてある。 屋上で弁当を食べるようになってから、追加で1缶貰った。どこで購入したのか問えば、まあそこら辺でむにゃむにゃ……と、お茶を濁していたけれど、私が住んでいるこの町は日本地図でいうとブラックホールか、それとも磁場が歪んでいるのかというくらいに、とにかく世間の流行に無頓着な町で。 知っているのだ。このコラボ缶、車で30分先のスーパーにしか売ってないってことを。 「八千穂ってば、どうしてそんな所まで……」 まあ買い物ついでにって感じだったんだろうけど。 車を持っていない八千穂だから、きっとチャリで向かったはず。ってか私もチャリで行こうとして、断念したからね? そこで、私ははっとした。 そういえば会社の事務、八千穂の取り巻きの女の子はみな、車通勤している、と。 その中に八千穂の彼女がいたとすれば、もしかしたら車で送ってもらったのか、もしくはドライブがてらでーだったのかもしれない。 モヤっとした。なんかわかんないけど、胃の辺りが気持ち悪くなる。 「昼に食べた天ぷらにでもあたったかな」 違ーう。そうじゃなかった! 『人のふり見て我がふり直せ』だった! 冒頭に戻らなくちゃ! そんなわけで私は、過剰なまでな八千穂への嫉妬心にフタをしようと心に決めた。 八千穂の香山チーフへのイヤミといったら、まあ聞くに耐えないからね。 「あー私ってば。ハタから見れば、あんなにも醜かったのかぁ」 なんて、落ち込んだりうだうだ考えていたら、睡魔が踊り出す。 (……八千穂の彼女とかって、どんな人なんかな……) 夢見心地の中でもなぜかモヤりながら、私は朝までぐーすかぴーと眠った。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加