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EP 15
「はあはあはあはあはあ」
安心してください。ただの息切れです。
天気の良い穏やかなある日曜日、『スーパーマルヤス』にて。
「はあはあ、車で30分だとだいたい自転車で1時間くらいかなーって……はあはあ思ってたけど目測誤ったわ……つ疲れた……´д` ;」
腕時計を見る。実際には1時間半ほど要している。
「これが帰りもか……地獄か。ちょっと休もう……」
スーパーの入り口に置いてあるベンチに座る。自販機でミネラルウォーターを購入し、ぐびぐびと一気に飲み干した。
「コラボ缶のためならイケると思ったけど、やっぱキッツ」
手をパタパタし、微風を顔へと送る。
かねてより某アニメとのコラボしたコーヒー缶を買ってはいたけれどそんな中、昨日からアニメのキャラクターが大集結したプレミアム缶が追加されたらしい。それ欲しさに、1時間半を自転車で爆走するだなんて、私マジ鬼的にスゴッ!
ベンチで少し休んで元気を取り戻し、さあ待っとれコラボ缶爆買いしてやるぞ!! って気合いを入れて立ち上がった瞬間。そこで、駐車場から歩いてきた男性に声を掛けられた。
「あれ? なんだ花崎、偶然だな。買い物?」
「香山チーフ? お、お疲れ様です」
いつもはスーツの香山チーフ。当たり前だが普段着な姿を見る機会がないもんだから。
本日トレーナーに黒のデニムパンツのくつろぎスタイルが、普段はイケメンハイスペな男性のギャップ萌えを演出してて、ピカーと目に眩しかった。
「こんなところで会うなんて珍しいな」
「はあ。普段は近所のスーパーで間に合わせてますから」
「とはいえお前、ジャージって」
「今日は仕方がないんです。動きやすい服装じゃないと」
「動きやすいって……え、まさかお前……」
「はあ。チャリで来ました」
そう言って、自分の自転車をアゴでしゃくった。
「まじか。お前んちって、前田山の方じゃなかったっけ? すげえな」
「まあね! ってドヤりたいところですけど、足腰ぶるぶるになったんで休憩してたんです」
「お子さま用のカート乗っけてやろか?」
「助かりまーす。って香山チーフは買い物ですか?」
「俺はまあ、家がこっちの方だから……それでも車で来たっつの。お前のチャリの前だと、俺の愛車がベビーカーに見えるわ」
私の隣りにストンと座った。
「コーヒーでも飲む?」
私はすかさず答えた。
「まさにそのコーヒー缶を買いにきたんです」
「そうなの?」
「プレミアム缶が発売されたんで。今流行りの鬼をやっつけるアニメ知ってます?」
「ああ。知ってる。うちの姪っ子が観てるわ」
「私、そのアニメ大好きなんですよ。マンガの単行本も持ってます」
「へえ。じゃあそれ買いに行こう」
「付き合っていただかなくても」
「どうせ買い物すんだから」
「は、はあ」
二人中へ入ってコーヒー缶コーナーへ直行する。さすが流行りのアニメ。その商戦にちゃっかり乗っかろうと、ちゃんと平積み棚が作ってあり、これでもかとたくさん並んでいる。
「あった! って……え? こんなにあるのに『お一人様2缶まで』だと?」
「花崎、何缶欲しいの?」
「キャラクターの人数分買おうと思っていたのに!」
「ってことは……8人か。俺も協力するとして、あと4缶」
香山チーフが、キョロキョロとする。
そして誰か見つけたのか、「おーーい、そこの二人!」と、手を上げてブンブンと振った。
「ちょい手伝ってくれー」
私は振り返り、そして。
驚愕した。
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