EP 19

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EP 19

(ぬうぉぉおお) 自転車で坂道を駆け登る。太ももはすでにパンパンだけれど、私はハンドルを決して離さない。坂道攻略すっぞ! くっそー! 八千穂のやろー! そんな感じで立ち漕ぎして上り坂を頑張っていましたので。むんむんとこの健脚に目一杯の力を入れて、坂道と戦っていましたので。 なんかスマホ鳴ってんなーって思っただけで。 ガーッとなんも考えずに走りに走った。 (あーはいはい酒向さんが彼女ってわけね! なるほど!) きっと車に乗って、今晩何食べる? 鍋にする? とかなんとかイチャイチャ言いながらさ。 スーパーのど真ん中で、あんだけ堂々と腕組みなんかしちゃって、ラブラブじゃない! 「はあはあはあはあ」 安心してください! 疲れただけだから! 家に帰ると私はベッドの上にバフっと倒れ込んだ。 「あーもう! なんかイヤ! なんかわかんないけど気にくわない!」 罵詈雑言叫びながら両手両足をバタバタしたのち、またダンゴムシのように丸くなった。 「なによなによなによ、彼女いるんだったらお昼の弁当、屋上で食べなきゃいいじゃん」 ぶつぶつ文句を垂れながら、丸くなっていると、チャリ爆走の結果、おおいなる睡魔に襲われた。私はその日、夕方までぐっすり眠ってしまった。 その間の着信履歴が……怖かった。 「あ、ありがとう」 不本意だが、ここはもうお礼を言うしかないくらいに、私は追い詰められている。 ランチの時間、相変わらず八千穂は屋上へとやってきて、フンスと鼻息荒く、ベンチに座ってお弁当を食べている。 黙々と。 で、コーヒー缶を渡してくる。 『スーパーマルヤス』事件があった次の出勤日。八千穂は弁当を食べながら、プレミアムコラボ缶を2缶「ん」と言って渡してきた。 「昨日はごめん。すっごく疲れちゃって、電話出れなかったんだけど」 ふと見ると、八千穂の目のクマがすごい。顔の血色も悪く、目もしょぼしょぼしている。 「どうしたの? 顔色悪いけど」 「寝れなかっただけ」 「そう?」 沈黙。こんな時に限って、花さんが不在。助けてー。 「なんで疲れたの?」 「へ?」 「電話出れないぐらいなんで疲れたのかって聞いてるの。何してたの? 何やって……何やってたの?」 私は本日の玉子焼きをぶっ刺して、口に入れた。もぐもぐ。美味いよ。美味いけど……八千穂が不機嫌すぎて、あんま食べた気がしない。 「1日3時間だよ。3時間チャリ漕いでみ? 倒れるから。筋肉痛で身体バキバキだし。今朝起きるのだって、やっとだったんだからね!」 「え? 帰りもチャリだったの? チャリで帰ったの?」 「当たり前じゃん。チャリじゃなかったらどーやって帰るのよ」 「……そうなんだ。ほっ」 はいこれあげる。玉子焼きをひとつ、八千穂の弁当箱に移動した。相変わらず、八千穂の玉子焼きは美味しい。美味しいけど、やっぱ食べた気がしない。 「で? なんの用だったの? あの鬼電」 「ああ、あれはいいんだ。何にもなくて結果オーライってことで」
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