248人が本棚に入れています
本棚に追加
EP 2
この『indigo blue』社屋の屋上には、畑がある。会社の経営者、八色夫妻が管理していて、ご夫婦の趣味は園芸。
社長である夫の八色尚介さんは利益追求型でお金にガツガツしているからか、ここの畑で採れた野菜を社内で売りさばいている。
食堂の横、野菜無人販売コーナーは社長の発案。転んでもタダでは起きんっ! ていう人なのだ。
反して、副社長で奥さんの華さんは、そんな屋上の畑をお昼時に、のほほんと手入れをしていて、収穫すると社員にタダで配ってしまう太っ腹。
社長の器の小ささを、どんぶりほど器のデカい華さんが包み(?)込んでいる。
華さんが畑をよいしょよいしょと耕すかたわらで、その様子を見ながら、私はお昼ご飯をよくここで食べていた。
「あーもう! クッソむかつく〜〜っと、華さん、こんにちは。お邪魔します!」
ひとつだけ置いてあるベンチに座って弁当を取り出した。
「繭香ちゃん、いつもそんなギラギラした目してて、疲れない?」
「これでも最大級の営業スマイルです」
いつもの挨拶を交わす。
華さんが、花壇に生えたぺんぺん草を、えいやえいやと引っこ抜いている。
「だって悔しいじゃないですか。あのお弁当箱、私だってこれは売れる! って目を付けてたんですからね」
「あーまた八千穂くん絡みぃ? レインボー弁当箱のことね。目をつけてたって言うけど企画書はあげたの?」
「……あげてません」
「じゃあ八千穂くんの完全勝利ね」
「くぅっ」
箸を持つ手に無駄な力が入ってしまう。折れる折れる。
華さんは、見かけはのほほんだけど地味に痛いところをグリグリしてくる、その凶暴性、ギャップ萌えが過ぎる人だ。社長の方が、キビキビシャキシャキしているけれど、実はヌケが多かったりして、その度に華さんから攻撃を受けては撃沈している。
でもまあ良いコンビだなあと思う。足りない部分を、お互いに補っているのだから。
私はベンチに座ったまま、視線を地面に落とした。足元で2匹の蟻がウロウロしていて、私は踏まないようにと足を抱え込むようにしてベンチに乗せた。この2匹、仲良さげだけど夫婦なのかな……。
「……華さん、結婚ってどんなもんですか?」
「んーーー? 急になによう」
「事務の女の子たちは八千穂みたいな男と結婚したいんですって」
「そりゃ八千穂くんならね」
「あんなスカした奴のどこが良いんですかね」
私は2匹の蟻がどこかへ去っていったのを確認してから足を戻し、弁当をバランスよく膝の上に置き、再度箸を突っ込んだ。
玉子焼き。はははー焦げてるー。弁当男子の八千穂なら、玉子焼きを焦がしたりはしない、らしい。
だとしたらハイスペック過ぎるだろー。
最初のコメントを投稿しよう!