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EP 20
「はあ。そうですか」
私はさらにタコさんウィンナーを口へと放り込んだ。咀嚼すると、じゅわと肉汁が溢れてくる。この肉汁で、白ごはん半分はイケる。
「ねえ八千穂……私思うに、こんなところで玉子焼き交換してる場合じゃないよ」
彼女を大切にしなきゃ。あんたの彼女が酒向さんだなんて、ちょっと気に入らないけどね。ってか、めっちゃ気に入らないけど!!
「え、なんで?」
「誠実であれ」
「俺はいつだって誠実だ」
ふんと胸を張っている。バカ八千穂。わかってない。
「あんたは私のこと女とは見ていないかもしれないけど、私も一応、性別は女だし? 酒向さんが、私たちのこんな姿見たら、気分悪いと思うよ」
「ん? なんで酒向さん? そんなことはどうでもいいけど、繭香は……その……かかか香山チーフのこと、どう思ってるの?」
「香山チーフ? ああ、あの人、とことん出来る人だよね。頭良すぎて、なに考えてるかわかんないときがあるもん」
「そ! うじゃなくてさあ。す、好きとか嫌いとかそういう感情」
「?? 嫌いではないよ。仕事のこと相談できるから」
「仕事の相談なら、俺にすりゃいいじゃん」
「そりゃそうだけど、八千穂はデキスギくんだもんね。アドバイスっていうか、ちょい上から目線なんだよね。ちょいだけどね! だから、相談しづらいっていうかー」
「女として見てる!」
ふぁっ⁉︎ は? なんて?
箸の先で摘んでいた甘豆がころんと落ちていった。
もったいな! でもまあ、これはもうアリさんへの上納品だな。どうぞ美味しくお召し上がりくだ……じゃない! なんて?
「繭香のこと、女としてしか見ていない」
「へ、へえ。そそそそれはありがありがとううう」
アセアセしながら八千穂の横顔を盗み見る。血色の悪さはさっきよりは落ち着いたが、目の下のクマが際立ってすごい。苦悶の表情、目は一点を睨んでいて、バキバキだ。大丈夫なの?
「……八千穂さあ、今日は早退して家で休んだら?」
「俺、繭香のこと……」
「や!ちほが、私を女として見てくれてるっていうのちょい嬉しかったし、お弁当作りもうちょっと頑張ってみるわ。美味しい玉子焼きを食べさせてあげられるようにね!」
グッと親指立ててから弁当箱をガタガタと片付ける。
「ごちそうさま! お先に!」
階段をモーレツに駆け下りた。
(もうなんなのーなんなのーよー)
その週末。の休日。ぼっさぼさの頭で遅い朝ごはん食べながら、先日あったことを脳内再生。いやこれ何回目? もう何度もあの場面を思い出している。
(「女として見てる!」「繭香のこと、女としてしか見ていない」「俺、繭香のこと……」)
月9ドラマ!少女マンガ! の展開!
まさかまさかの「こ、告白だったかも……んぐっ」
白飯がつかえた。胸をこぶしでドンドンと叩く。
「んーーぐるじい」
お茶を流し込んで、ほっと一息ついた。
逃げてきちゃったけど、あれは流れ的には告白なのではなかっただろうか。まさかまさかの……好き……??
「ちょ待って嘘でしょそれはないそれはない」
そうだ待って。酒向さんのこと忘れてた。じゃあ酒向さんはいったいあんたのなんなのよ、って話になるじゃない?
あの日、二人仲良く買い物してたよね? 二股か!
「ちゃんと確認すれば良かったけど……」
っていうか、もし。もし万が一、八千穂が俺と付き合ってとか言ってきたら、私どうすんの?
「八千穂かあ……」
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