EP 20

1/1
前へ
/32ページ
次へ

EP 20

「はあ。そうですか」 私はさらにタコさんウィンナーを口へと放り込んだ。咀嚼すると、じゅわと肉汁が溢れてくる。この肉汁で、白ごはん半分はイケる。 「ねえ八千穂……私思うに、こんなところで玉子焼き交換してる場合じゃないよ」 彼女を大切にしなきゃ。あんたの彼女が酒向さんだなんて、ちょっと気に入らないけどね。ってか、めっちゃ気に入らないけど!! 「え、なんで?」 「誠実であれ」 「俺はいつだって誠実だ」 ふんと胸を張っている。バカ八千穂。わかってない。 「あんたは私のこと女とは見ていないかもしれないけど、私も一応、性別は女だし? 酒向さんが、私たちのこんな姿見たら、気分悪いと思うよ」 「ん? なんで酒向さん? そんなことはどうでもいいけど、繭香は……その……かかか香山チーフのこと、どう思ってるの?」 「香山チーフ? ああ、あの人、とことん出来る人だよね。頭良すぎて、なに考えてるかわかんないときがあるもん」 「そ! うじゃなくてさあ。す、好きとか嫌いとかそういう感情」 「?? 嫌いではないよ。仕事のこと相談できるから」 「仕事の相談なら、俺にすりゃいいじゃん」 「そりゃそうだけど、八千穂はデキスギくんだもんね。アドバイスっていうか、ちょい上から目線なんだよね。ちょいだけどね! だから、相談しづらいっていうかー」 「女として見てる!」 ふぁっ⁉︎ は? なんて? 箸の先で摘んでいた甘豆がころんと落ちていった。 もったいな! でもまあ、これはもうアリさんへの上納品だな。どうぞ美味しくお召し上がりくだ……じゃない! なんて? 「繭香のこと、女としてしか見ていない」 「へ、へえ。そそそそれはありがありがとううう」 アセアセしながら八千穂の横顔を盗み見る。血色の悪さはさっきよりは落ち着いたが、目の下のクマが際立ってすごい。苦悶の表情、目は一点を睨んでいて、バキバキだ。大丈夫なの? 「……八千穂さあ、今日は早退して家で休んだら?」 「俺、繭香のこと……」 「や!ちほが、私を女として見てくれてるっていうのちょい嬉しかったし、お弁当作りもうちょっと頑張ってみるわ。美味しい玉子焼きを食べさせてあげられるようにね!」 グッと親指立ててから弁当箱をガタガタと片付ける。 「ごちそうさま! お先に!」 階段をモーレツに駆け下りた。 (もうなんなのーなんなのーよー) その週末。の休日。ぼっさぼさの頭で遅い朝ごはん食べながら、先日あったことを脳内再生。いやこれ何回目? もう何度もあの場面を思い出している。 (「女として見てる!」「繭香のこと、女としてしか見ていない」「俺、繭香のこと……」) 月9ドラマ!少女マンガ! の展開! まさかまさかの「こ、告白だったかも……んぐっ」 白飯がつかえた。胸をこぶしでドンドンと叩く。 「んーーぐるじい」 お茶を流し込んで、ほっと一息ついた。 逃げてきちゃったけど、あれは流れ的には告白なのではなかっただろうか。まさかまさかの……好き……?? 「ちょ待って嘘でしょそれはないそれはない」 そうだ待って。酒向さんのこと忘れてた。じゃあ酒向さんはいったいあんたのなんなのよ、って話になるじゃない? あの日、二人仲良く買い物してたよね? 二股か! 「ちゃんと確認すれば良かったけど……」 っていうか、もし。もし万が一、八千穂が俺と付き合ってとか言ってきたら、私どうすんの? 「八千穂かあ……」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加