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EP 21
ずっとライバル視しかしてこなかったから、今さら八千穂のこと好意を持って見るなんて。できるんかな?
「八千穂かあ……」を連発しつつ、二杯目のお茶を淹れ始める。
その時、スマホが鳴った。画面を確認すると、なんと香山チーフの名前が。
「うわ! 私、なんかミスった? あれ! あれか! キースタンドの発注数、ミスったやつ! 怒られるやつ!」
直ぐにタップし、スピーカーにする。
「もしもしもし申し訳ありませんっっ」
『は?』
「もう少しで会社に大損害を与えるところでしたが、すんでで発注の数は撤回訂正できました!」
『あーあれね。サンワさん笑ってたぞ。さすがにこの数はないわって。お前のミスはスケールがでか過ぎてミスになりきれないっていう、もはやネタだな』
「お相手様にご指摘いただいて気がつくあたり、アフォとしか言いようがありません! ほんっと申し訳ありませんでした!」
『そういう電話じゃないんだけど。まあそれは置いておいてだな。花崎、今ヒマ?』
ちょっと嫌な予感がしたので、
「……ごはんが喉に詰まってしまったので、今、お茶を淹れようとしてて、茶畑に茶摘みに行くところです」
『よし。ヒマだな。じゃあ今から迎えにいく』
は? と言う前に、ブチッと通話は切れた。
いやいやいやなになになに。
迎えに行くってどういうこと?
こっちは白飯が喉に詰まってるって言ってるのに!
レスキューしに来るってこと?
八千穂といい香山チーフといい、本当に混乱させてくるわ。
私は残った白米にお茶を注いでお茶漬けにし、CMのようにゾゾゾゾっとかきこんだ。
お茶漬けを食べ終わるころ、ピンポンとチャイム。
私が、「はいー」とドアを開けると、そこには香山チーフ。『スーパーマルヤス』で偶然会った時のようなラフな服装だ。来んの早っっ。
「おう。休みの日にすまん。悪いが、助けてくれ」
「どうしたんですか?」
「人助けだと思って……あ、バイトってことでいい! 給料払うから!」
会社では見せない、困りきった表情だ。こんな一面があるんだな。
「嫌な予感しかしない」
「おおむね当たりだ」
「じゃお断りしますです」
ドアを閉めようとすると、ガンと足を挟んできて、粘る香山チーフ。
「!! 花崎、俺この前コラボ缶買うの、協力してやったよな?」
な? と念押しするように、コテンと顔を傾ける。
ちっさ! 人としてちっさ!
「あれは香山チーフが勝手に……」
「だがしかし俺がいなければ、お前は2缶しか手に入れられなかったわけだろ? 正真正銘、香山チーフサマサマだよな?」
「…………」
「頼むっ、この通りだから助けてくれ!」
目の前で合掌ポーズ。ちょまそれ反則ー。仏やん。上司の合掌は絶対に断れないやつ。
実際、香山チーフのこんな情けない顔を見たことがない。私はこれは緊急事態だと踏んで渋々だが「わかりましたよ」と了承してしまった。
「よし。じゃあ行くぞ」
「え、今からですか?」
「そうだ。時間がない。それにしてもそのジャージじゃ都合が悪い。ワンピースかなんかないの? 着替えてよ! あとメイクも!」
「ちょっと香山チーフ。いい加減にしてください。私のこの部屋のありさまを見て、花柄フリフリワンピなんて置いてあると思いますか?」
「ないな」
「即答ww。まメイクはしますけど、あとはパンツスーツでいいですか?」
「それじゃデートにならんだろうが」
「デート? どゆこと?」
「まあいいや。そのままで。スマホとサイフだけ持ってきて」
そう言われて、腕を引っ張られる。が、負けない! 足を突っぱねて踏ん張った。
「さすがにメイクだけさせて! ちょっと待っててください!」
ぶんっと掴まれた腕をはずし、だーーっと部屋へ戻り、急いで化粧水をばしゃあっと顔にかけた。
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