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EP 22
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙ではありますが、これはまごうことなく、修羅場です。
香山チーフに連れられて向かった先にこんな、どーん! な修羅場が待っていようとは、思いもよらなかったわけです。もうさ、正直どーしていーかわからん。助けて。
香山チーフの運転する車に乗ったはいいけど、まず連れていかれたのはショッピングモール。
「え、ちょ、ま、香山チーフ正気ですか!? いくら私でも、さすがにここをジャージで歩くのは、地獄なんですけど!?」
「そんなの気にしない!」
ぐいぐいと腕を引っ張られ、自動ドアから有無を言わさず突入。
はあっっっうっ(;´д`)。みんなの視線が痛いぃぃい。
「恥ずい恥ずい恥ずい」
もう一方の手で顔を覆う。
「すまん、頑張って耐えてくれ……よし、ここでいいか!」
入ったお店は、可愛らしい洋服で溢れていた。腕を引っ張ったまま、これとこれ! と言いながら、シフォンのブラウスとオレンジ色のふわりとしたスカートをチョイス。甘々コーデだ。
そのまま試着室に連れていかれ、ぽいっと放り込まれた。
「早く着替えてくれ、時間がない」
自分に何が起きているのか、まっっっっったく理解できていない。言われるままジャージを脱ぎ、そして渡された洋服を試着した。
「えっあっえっどうしよっ」
全身が鏡に映る自分を見て、ひゃあっと声を上げると、シャッとカーテンが開けられた。
「どうした! サイズか! サイズが合わないんか?」
香山チーフが真剣な顔で問うてくる。
「いえ! くっ……靴下に穴が……」
部屋着のまま慌てて出てきたし、助手席ではすごく緊張していたのもあって、足の親指の違和感に、まーったく気がつかなかった。
ぶふーーっと吹き出した香山チーフ。腹を抱えて笑う。ってか香山チーフのせいでこんなことになってるんですけ怒!
「あははははーっお前ってば、最高だな……と! 笑ってる場合じゃなかった。靴下と靴探してくる」
笑いながら店内を回り、一瞬で持ってきた靴下と靴を渡される。
「おぉ可愛いじゃん」
さすがオシャレ番長な香山チーフのチョイス。確かに甘くて可愛かった。
すみませーんと店員を呼ぶ。
「これ全部ください。このまま着ていくので、値札切ってもらえる?」
店員さんは試着室に脱ぎ捨てられ、脱皮みたいになっているジャージを見て、お察し。
「承知しました」
紙袋をくださった。香山チーフはクレカで支払いをスマートに済ませると、「よし! 準備万端だ」
「なんの?」
はっとしてしまった。今度は、私の手を握って、引っ張っていくからだ。ジャージの入った紙袋を反対の手でぶら下げながら。香山チーフは元来、こういう紳士なところがある。
「結構楽しいな」
そんな風に低く小さな声と、その手の大きさと温もりにドキッと心臓が跳ねた。
で。
で?
で。
ここ。そのショッピングモールの近くの、カフェにて。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
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