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EP 3
「八千穂くんは料理はできるし、しかもシェフレベルの腕らしいし。高給取りだし(※自社アゲ)……あー……あとはイケメンだねー。優しそうだから結婚したら家事とかも手伝ってくれそうね」
「ムカつく要素しかない」
「ははは。どーしてそっちにいくかね?」
華さんは大声で笑うと、折っていた腰を真っ直ぐに伸ばし、ふうっと身体を伸ばした。で、空になったジョウロをフリフリする。
「でもさあ、繭香ちゃん。なんでそんなに八千穂くんのこと敵視するの? あんだけの優良物件、普通きゅーんってならない? もしかしてイケメンアレルギー?」
焦げた玉子焼きを口へと放る。味はまあまあ、なのかな。焦げてるだけ!
「嫉妬ですよ」
「え?」
「デキスギくんに対してのただの嫉妬です」
「そうなの?」
「完全にこじらせてます。私。同期だし、私より商品選ぶセンスあるし、なんでもスマートに苦労せず出来ちゃうから、ヤキモチやいてんです」
「なーんだ。そんな可愛い理由だったのね」
「八千穂に勝ちたい」
そりゃあ仕事の戦績で勝ちたいに決まっているけど、もうどんなことでも良いから、なにか一つでも勝てるものがあればそれで良い! って、そんなレベルまで達してしまっている。
華さんが笑う。
「大丈夫。可愛げのなさで勝ってます♡」
「そんなので勝つって、イヤだーーー」
ほんのり苦い玉子焼きをモグモグしながら天を仰いだ。
*
「あのさ、そのフライパンって、ガス火対応だよね」
私の席へとイスに座ったまま、ガーっと近づいてきて、PCを覗き込みながら、八千穂がのたもうた。
「そうだけどなにか?」
「いやあ、昨今IH多いからさ。売れるかなあと思って」
昨今? 今、昨今って言いました?
「でも流行りの『チマチマ』だよ? ホットケーキ焼くとチマチマの顔になるって、可愛いと思うんだけど」
「うん。間違いなく可愛いんだけどさ……でもチマチマ好きの人の中でもガス火の人しか買わないじゃん。その為だけにガスコンロ買わんだろーし。狙う客層の範囲狭くね?」
「…………」
「ちなみにうちはガス。『チマチマ』好きだし、あったら使うけど」
PCの手を止めてしまった。
ダメ出し食らうのも悲しいし悔しい。ずうんっと漬物石かなんかの重しが胸に落ちた。
同期なのにいつも一歩どころか二歩も三歩もリードされていて、私は八千穂の背中しか見ていないわけで。八千穂が言うならそうなのかもしれないと、1ミリでも思っちゃうあたり。それもなんだか悔しいわけだ。
めらめらと嫉妬の炎が燃え上がる。
「……別に売れると思う」
悔しさからの反発心。
「繭香がそう思うなら良いんじゃね?」
「…………」
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