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「まずは目だ。俺を苔にした報いだ」
光りの早さで二葉の放った狐粉は走り、蛾の丸い両目を青い強い火焔が覆った。
水蒸気が立ちのぼる。水分をなくし眼科が無残に焼かれていく。未来は戦慄いた。
「お前を見つけて殺してやる。だが、簡単に死ねると思うなよ」
蛾は悶え、苦しみからかあらぬ方へと飛び回った。鱗粉が削れ、尾を引くように飛び散っていた。
「次は羽だ」
言うが早し、すでに蛾の後翅が、ぼっと燃え盛る。とたんに、重い鉛を乗せられたように、蛾は宙を上下運動させ逃げて飛行している。
未来の両足がガクガクと振るえる。手も、唇も。
嫌になるほどこの光景を見ているのが怖かった。
(やめて! どうして、二葉の力ならこんな式、一瞬で消し去れるはずなのに。こんな……)
まるでいたぶるような行為。
ついに前翅まで燃えると。ぼとっと蛾は床に落ち、のろのろと這いずり回った。
「次は、どこがいい。まだ死ぬなよ」
やめて。
『お前はそちら側の者ではない』
式の言葉が脳裏を過ぎる。未来は声を詰まらせ一言も発せられない。
二葉は嗤っている。まるで未来が見た夢のように。恐ろしく。秀麗に。
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