6―7 襲撃

7/9
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
「まずは目だ。俺を苔にした報いだ」  光りの早さで二葉の放った狐粉は走り、蛾の丸い両目を青い強い火焔が覆った。 水蒸気が立ちのぼる。水分をなくし眼科が無残に焼かれていく。未来は戦慄いた。 「お前を見つけて殺してやる。だが、簡単に死ねると思うなよ」  蛾は悶え、苦しみからかあらぬ方へと飛び回った。鱗粉が削れ、尾を引くように飛び散っていた。 「次は羽だ」  言うが早し、すでに蛾の後翅(こうし)が、ぼっと燃え盛る。とたんに、重い鉛を乗せられたように、蛾は宙を上下運動させ逃げて飛行している。 未来の両足がガクガクと振るえる。手も、唇も。  嫌になるほどこの光景を見ているのが怖かった。 (やめて! どうして、二葉の力ならこんな式、一瞬で消し去れるはずなのに。こんな……)  まるでいたぶるような行為。  ついに前翅(ぜんし)まで燃えると。ぼとっと蛾は床に落ち、のろのろと這いずり回った。 「次は、どこがいい。まだ死ぬなよ」 やめて。 『お前はそちら側の者ではない』  式の言葉が脳裏を過ぎる。未来は声を詰まらせ一言も発せられない。 二葉は嗤っている。まるで未来が見た夢のように。恐ろしく。秀麗に。
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!