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1-2 肝試し
「肝試しやと」
「しっ。声が大きいよ彩兄」
夏虫がカナカナと鳴り響く。夜風が心地良い。学校へと向かう通学路。寂れた車道から車が横切った。
すっかり暗くなり街灯の光が点りだした。
トボトボと歩きながら未来は、ショルダーバックから顔を出して、はみ出ている、顰めっ面の彩兄と話していた。
「なして、そんな馬鹿げたことになってるんや」
「えっと。理恵ちゃんがね」
「理恵? ああ。高校で出来た友達やったか」
「うん。理恵ちゃんの部活の仲間が、肝試しの企画を立てたんだって」
「だから、なんや」
明らかに彩兄の声のトーンが、低く冷ややかな物に変わり未来の背筋がほんの少しヒヤリとする。
「呼ばれた」
「阿呆か」
「だって人数集まらないから来て欲しいって」
「知ったこっちゃないやろ。阿呆が、子供っころから悪霊には痛い目みてきてるやろが、肝試しやと。そういった場にはいるやろうが」
「わかってるよ」
「わかってへん。悪霊は妖魔に寄生されたゾンビみたいな奴らなんだぞ」
──悪霊。それの正体は低級妖魔の黒オーブだ。幽霊の体に入り込み寄生し感情を奪い、霊を悪霊にしてしまう厄介な奴ら。
「小さいころ狙われまくったくせに。肝試しやと、ははは。帰るぞ」
「うぅぅぅ。帰らないよ。それに無視出来ないよ。昔は弱かったけど。ほら私、強くなったし。悪霊ぐらいなら今ならひとりでも大丈夫。それに強い悪霊が出てきたらどうするの?」
「自業自得やな」
「彩兄。冷たい」
「知るか。まったくヘロヘロやったくせに」
「体調には気をつけるよ」
「ほうほう。そうか、せなら、右狐と左狐の漬け物、たんまり食べや」と彩兄は大袈裟に叱り、未来はふて腐れ、ちぇっと足元の小石を蹴り、学校へと向かったのだった。
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