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それから3ヶ月後、10月の第3日曜日。
純は『宅地建物取引士』の試験が行われる会場まで、志賀が運転する車で向かった。駐車場に車を停め、純と志賀が試験会場の出入り口に行くと、久坂と内山が立っていた。純は2人を指さし志賀に言う。
「あれって、久坂君と内山さんじゃない?」
「あぁ、久坂は宅建を受けるから分かるけど、何で内山までいるんだ?」
2人で顔を見合わせ、久坂と内山の元に向かう。
「おはよう!」
純が2人に声をかけると、2人は笑顔で挨拶を返した。
「おはようございます!」
「どうしたの? 2人揃って。久坂君は試験を受けに来たんでしょうけど、内山さんまで…」
「純先輩を待っていたんです!」
内山が純の腕に腕を回して掴む。
志賀と結婚してから、2課では純の事を旧姓の桃井とは呼ばなくなり、後輩達は「純先輩」目黒と吾妻は「純」他の先輩やマネージャーは「志賀さん」と呼ぶようになった。
「えっ、私を?」
「そうです!」
「久坂君の付き添いとかじゃないの?」
「違いますよぉ。純先輩の応援です。まぁ私の応援なんてなくても、純先輩なら大丈夫でしょうけど…」
「ふふっ、そんな事ないよ。ありがとう内山さん」
そう言って純は内山に微笑む。
「純、そろそろ中に入らないと」
志賀がそう言うと、内山が純の腕から離れた。
「じゃ久坂君、行こっか」
「はいっ」
純と久坂は会場の出入り口へ足を向けた。志賀が2人に声援を贈る。
「純、久坂、頑張れよ!」
「うんっ!」
「はいっ!」
「試験終わるまで近くで待ってるから」
「うんっ」
純は志賀と内山に手を振って、久坂と一緒に会場内に入った。
*****
「行ったな…」
「はい…」
純と久坂を見送って、夏哉は内山に尋ねる。
「内山は何で来たんだ?」
「あ、私は電車で来ました」
「そうか。じゃ車はそのまま駐車場に置いて、近くのカフェで時間潰すか」
「そうですね」
会場からすぐ近くにあるカフェに入り、夏哉と内山は久しぶりに向かい合ってコーヒーを飲む。
「どうだ? 最近」
「楽しいですよ」
「おっ、楽しい…か。俺の下についていた頃には聞いた事がなかった言葉だな」
「ふふっ、そうですか? 志賀先輩についている時も楽しかったんですけど、今は何ていうか、本当に仕事が楽しいって思えるんです。お客様の喜んだ顔とか「ありがとう」って言ってもらえると、この仕事をしててよかったなって思えるようになりました」
「そうか。2課に戻ってよかったな」
「はい。純先輩のお陰で本当の営業の楽しさを知り、大切なものを教えてもらいました」
「ふっ、純ってすげぇ奴だろ?」
「はい……すごい人です。私なんて到底足元にも及びません。大きくて広い心を持った優しい人です」
「ふふっ、まさか、内山からそんな言葉を言わせるなんて……俺の妻は、一体内山に何をしたんだか…」
純のすごさに感心しながらコーヒーを飲んでいると、内山がふと尋ねた。
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