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「志賀先輩……聞いてないんですか?」 「ん…? 何を?」 「私と純先輩が何を話したのか…」 「あぁ、聞いたよ。2人で俺の話をしたって。その時、純が「俺の事を渡さない」って内山に言ったんだろ?」 「……ほんとに言ってないんだ…」 「えっ…」 「純先輩は、言わないかぁ。約束は守る人だもんなぁ……実は私」 「内山」 人が変わったように心を入れ替えた内山が、悔やんでいるような表情で話し始めたが、夏哉はそれを止める。内山は話を止め、顔を上げて夏哉を見た。夏哉は真剣な顔で内山に言う。 「純と何を話したのかは言わなくていい。純が内山との約束を守っているならそれでいいんだ。俺は聞いた話で満足したし、純も内山もそれで今いい関係になっている。それでいいじゃないか」 「はい。ありがとうございます」 内山は優しい表情で礼を言った。 (本当に内山の表情が柔らかく優しくなった……きっと純が内山を変えたんだろうな…) 純から聞いた話だけではない何かが、2人の間にあったのだろうと夏哉は薄々気づいていた。それが何かまでは分からないが、あれだけしたたかで計算高かった内山が、これほどまでに変わるとは思えない。だが変えたのは間違いなく純だという事は明らかだった。それを今さら訊くつもりなど、夏哉にはなかった。 「それで? 今、久坂と内山がメインで頑張っているんだろ?」 「はいっ! いや、もう大変ですよ。よくお2人は営業1、2を取ってましたよねぇ……改めてすごさを実感しました」 「ははっ、だろ? すげぇんだぞ、俺達」 「ふふっ、はい。ほんとに…」 「でもな、頑張ってくれよ。純はいずれ退職させる」 「えっ…純先輩、仕事辞めるんですか?」 コーヒーカップを置いて、内山が驚いたように尋ねる。 「そうだな。もう少し先の話だけど、俺達も子供は欲しいからな。純はお前達の先輩である前に、俺の妻なんだ。俺達は家族なんだ」 夏哉がそう話すと、内山は納得し自分に言い聞かせるように言う。 「そうですよね。いつまでも純先輩に甘えている訳にはいかないですもんね」 「あぁ…」 「久坂と2人で頑張ります。志賀先輩と純先輩のように、安心して任せてもらえるように」 「うん、期待してるぞ」 それから試験時間が終わるまで、色々な話をして2人は会場の出入り口へ戻った。しばらくして純と久坂が揃って会場から出て来た。 ***** 「お疲れ。どうだった?」 志賀が純と久坂を労い、尋ねる。 「大丈夫だよ」 笑顔でそう言う純の横で、久坂は不安気な表情で言う。 「うーん……どうだろう…」 「まぁ、難しい試験だし、もしダメでもまた来年ある」 志賀が励ますように言うと、久坂は少し笑顔を取り戻し言った。 「そうですね。また来年、頑張ります」 「いやっ、1月の発表までまだ分かんねぇから!」 「はははっ、そうでした。いやでも、うん。頑張ります!」 「おぅ、頑張れよ! よし、じゃ、飯でも食いに行くかぁ! 今日は俺がおごってやるよ!」 志賀がそう言うと、久坂と内山は口を揃えて叫んだ。 「やったぁ! 焼き肉!」 「お前らなぁ! ! まっ、いいっか! 頑張ったしな。いや、内山は頑張ってないけど…」 「えぇ、志賀先輩、いいじゃないですかぁ。これから頑張るんですから、可愛い後輩ですよねぇ……私達…」 「ちっ、ったく! んじゃ、行くか!」 志賀の車に久坂と内山も乗せ、4人は焼き肉店に入り、お腹がはち切れそうになるほど焼き肉を堪能した。
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