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半年後、7月7日七夕。 『志賀総合病院』の1階には、大きな笹に沢山の短冊が吊るされ飾られていた。その中に純の短冊もあった。 『赤ちゃんを授かりますように』 純は吊るした短冊を見つめ手を合わせて、もう一度お願いした。 1階にあるカフェでパンとコーヒーで昼食をする。手作りパンが美味しいと人気で、いつもカフェの中は客でいっぱいだ。純は少し客が減る昼過ぎにカフェに訪れ、休憩時間を過ごすのが好きだった。 昼食を終えて、美味しいコーヒーでゆっくり休憩を過ごし、エレベーターで最上階の医院長室に戻る。 「あっ、純さん」 副医院長を務める母親から呼ばれ返事をすると、母親が優しく微笑んで言った。 「今日は結婚記念日でしょ。早く帰って美味しいものでも食べに行くといいわ」 「ありがとうございます」 純は母親に言葉に甘え、仕事を早めに終わらせ志賀にメッセージを送った。 【今日は結婚記念日だから、美味しいものでも食べに行ってって、お義母さんが仕事を早く上がらせてくれたの。夏哉はどう?】 すると志賀からすぐに返信が届いた。 【俺もそのつもりで、今日は仕事を詰めてないから、早く帰るよ】 【じゃ、先に帰って家で待ってるね】 【うん、分かった】 純は午後3時過ぎに病院を出て、車で自宅に帰った。 2月から『志賀総合病院』の医院長室で、経営を学び始めた純。病院までの通勤は、新しく購入した軽自動車で通っている。2月から色々な取引先と会い、医療機器の事や、薬の事を勉強し、少しずつ病院の事が分かり始めて来た。 4月の中旬には少し遅くなったが、ハネムーンにも行き、久利生からもらった『宿泊券』の威力に驚いた。ホテルに着いてフロントで『宿泊券』を出すと、予約していた『スイートルーム』よりももう1つ上の『スイートルーム』へ案内され、何泊でも無料だと告げられた。そして永久券だからと『宿泊券』を返されたのだ。 1週間滞在する予定で、その1週間の宿泊料金が無料になったのだ。2人は久利生に感謝しつつ、有意義なハネムーンを過ごしたのだった。 最近は時間があれば、病院内を歩くようにしている。病室の不備がないか点検しているのもあるが、各階にある病室を覗いたり、スタッフルームで話を聞いたりしているのだ。そのお陰で、医師や看護師とも顔見知りになりずいぶん仲良くなった。そして暇さえあれば、産科の生まれた赤ちゃんが眠っている部屋を覗くのが楽しみになっていた。 スヤスヤと眠る天使達。見ているだけで癒される。いつも顔を緩ませて天使達を眺め、医院長室に戻ると両親に産科に行って来た事がすぐにバレた。 「ふふっ、純さんにも早く赤ちゃんが出来るといいね」 優しく微笑んで言う父親に、いつも純は微笑んで返事をしていた。 先に家に帰った純は、リビングのソファーで横になり志賀の帰りを待つ。今日は少し朝から体が重い。病院に行けば不思議と元気になるが、家に帰って来るとやはり少し体がだるい。横になっている内に、純はいつの間にか眠ってしまった。 「……ん、純……」 志賀の声、純の名を呼びながら肩をトントンと叩く。ゆっくり目を開けると、志賀が純の顔を覗き込んでいた。 「あ、夏哉……おかえり…」 「うん、ただいま。どうした? 体調悪いのか?」 「うん、少し……体がだるいの」 「風邪か? 食事どうする? 家でゆっくり何か食べるか?」 「うーん……でも、美味しいものは食べたい…」 「ふふっ、じゃ美味しいものを宅配してもらう?」 「あっ、いいかも」 純がそう言って起き上がった瞬間。フッと吐き気が沸き上がって来て、純は洗面台へ走った。
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