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蛇口をひねり水を出しながら、吐き気を何度も催す。心配した志賀が純のあとを追いかけて来て、優しく背中をさすった。
「純、大丈夫か? やっぱり今日はゆっくり横になっていた方がいい。美味しいものはまた今度にしよう…」
志賀に背中をさすられながら、純はグルグルと考えていた。
(そういえば……先月……いつ来たっけ? あれ……きたっけ? まさか…)
純は顔を上げ洗面台の鏡で自分の顔を見る。背後で純を心配する志賀。
「夏哉……病院に戻る…」
「えっ…」
「志賀総合病院で……診てもらう…」
「あぁ、分かった。じゃ、行こう」
2人はすぐに家を出て、車で『志賀総合病院』に向かった。
『志賀総合病院』は大きな病院だが、夕方5時から夜の8時まで夜の診察をしている。2人は総合受付に行き、純が窓口のスタッフに声をかけた。
「あ、こんばんは。純さん、どうされたんですか?」
「こんばんは。ちょっと朝から体がだるくて、診察を受けたいのだけど…」
「何科になるかな? 内科で一度診てもらいます?」
スタッフがそう尋ねると、純は少し考えた後、スタッフに言った。
「たぶん……産科だと思う…」
「分かりました。じゃ産科の窓口でこれを出して下さい」
スタッフにクリアファイルを渡され、純は産科がある2階に向かった。
「純……産科って…まさか……えっ?」
志賀が純のあとをついて来ながら、半信半疑で訊く。
「たぶん……そうだと思う。先月、私、生理来てないよ…」
「マジで? ほんとに?」
「うん。それを検査してもらうの。でも、きっとそうだよ」
純は志賀の顔を見つめて言った。志賀は純の肩を抱き、産科の受付に向かう。
「あれ? 純さん? どうしたの?」
受付で声を掛けられ事情を説明し、問診票を書いて受付に出す。すると、尿検査を言われ純はトイレに向かった。紙コップに尿を取り、小さな窓にカップを置いてトイレを出る。待合のソファーに座っている志賀の隣に座り、順番を待って、番号が呼ばれ純と志賀は診察室に入った。
担当医師は女医の花村で、純が眠っている天使達を見に行くといつも声をかけて来るのだ。
「どうぞ、おかけ下さい」
花村に促されるように、純と志賀は並んで椅子に座る。花村から少し質問をされ、電子カルテで尿検査の結果を見て、花村が純と向き合いにこやかに告げる。
「志賀さん、おめでとう! 妊娠してるね」
その言葉に純は嬉しくて涙を浮かべ、隣に座る志賀を見た。志賀は純よりも驚き、涙を溢れさせて微笑んだ。
「そこのベッドに横になって」
「はい」
診察室にあるベッドに横になり、花村が純の服の裾を捲り、エコーで子宮内の様子を画面に映し出す。花村が指をさす先に小さな白いものが見える。
「これがお2人の赤ちゃんです。妊娠7週目くらいかな…」
「小さい…」
「そうね。まだ2ヶ月半くらい。どんどん手や足もはっきり見えて来るようになるわよ」
花村がそう話すと、志賀は純の手をぎゅっと握った。純も手を握り返し、2人のまだまだ小さな赤ちゃんをジッと見つめた。
花村はその映像をプリントアウトして手渡してくれた。
帰りの車の中、助手席に乗った純はずっとエコー写真を眺めていた。
「やったな、純。俺達の赤ちゃんだな」
「うんっ」
「これから楽しみだな。どっちだろうなぁ。男の子かな? 女の子かな?」
「ふふっ、どっちでもいい。元気に生まれてきてくれたら、それだけで…」
「そうだな。どっちでも純と俺の子だ。可愛いに決まってる」
「ふふっ、うんっ」
「よーし! ベビーベッドとか、グッズを買いに行かないとな!」
「うんっ!」
2人に訪れた幸せの知らせ。まだ見ぬ我が子の成長を楽しみにする純と志賀だった。
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