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3年後。 7月7日七夕の日。純は『志賀総合病院』の1階にある、大きな笹の前にやって来た。病院に訪れる患者やその家族が、笹に願いを込めて短冊を吊るしていく。誰でも気軽に願いを書いて吊るせるように、テーブルが用意されており、こよりの付いた短冊とペンが置かれている。 純は短冊に願いを書き、2年前に生まれた息子の直哉(なおや)に短冊を差し出し言った。 「直哉、ママのもつけてくれる?」 「うんっ!」 ぷっくりとした小さな手で、短冊を受け取り、両手を伸ばして笹を掴む。その笹の先にこよりを上手く巻き付け、吊り下げた。 「上手につけられたね」 「うんっ! ママのおねがい、なに?」 「ん? 直哉もパパもママも、みーんな元気でいられますようにって」 「ふふっ、みんな?」 「そう。みんな」 直哉に優しく微笑む純。すると直哉は、その短冊に両手を合わせて言った。 「おほしさま、おねがいします」 純も直哉の隣で手を合わせて祈る。 「どうか、よろしくお願いします」 2人で祈った後、直哉を連れ、カフェへ入り手作りパンを買う。トレーとトングを持ち、ズラリと並んだパンをどれにしようかと見る。 「直哉はこれが好きなのよねぇ」 そう言って純は、カスタードクリームがたっぷり入ったクリームパンを1つトレーに乗せた。 「あぁ! グーのやつぅ!」 直哉が右手をぎゅっと握って小さな拳を上に挙げて、純に手を見せる。まさしくクリームパンと同じ形をしていた。ミニクリームパンだ。 「ふふっ、そう。グーのやつ。好きでしょ?」 「うんっ、すき!」 「じいじとばあばは、何て言ってた?」 「じいじは、ソーセージがあるやつ」 純は並んでいるパンを見て、ホットドッグを1つトレーに乗せる。 「ばあばは、パリパリのリンゴのやつ」 「あぁ、アップルパイね。じゃ、私も…」 アップルパイを2つトレーに乗せ、レジに向かう。 「中で食べられますか?」 「いえ、テイクアウトでお願いします」 「はい」 1つずつ袋に入れてくれ、1つの袋に4つのパンを入れてくれた。レジ横に置いてある紙パックのオレンジジュースを1つ取り、店員に言う。 「これもお願いします」 「はい」 会計を済ませて袋を持ち、直哉の小さな手を繋ぎ、純はエレベーターに乗って医院長室に戻る。 「じいじ、ばあば、かってきたよー!」 直哉は2人のもとに駆け寄り、父親に飛びつく。純は微笑みながら、袋を応接セットのテーブルに置き、給湯室に向かった。 「コーヒー淹れますね」 「あぁ、ありがとう」 父親は椅子から立ち上がり、直哉を抱き上げてソファーに腰を下ろし、母親も直哉と話ながらソファーに座った。コーヒーを淹れてトレーにカップを乗せ、3人の元へ向かう。テーブルにコーヒーの入ったカップを置き、買って来たパンを袋から出して4人で食べる。 「今日、夏哉は早く帰ってこられるの?」 「はい。仕事が終わったら、すぐに帰って来るそうなので、食事に行って来ます」 「そう。じゃ、キリのいい所で仕事を終わらせて、早めに帰るといいわよ」 「ありがとうございます」 母親がそう言ってくれ、純は2時過ぎに家に帰った。 家に帰るとソファーで直哉がウトウトし始め、タオルケットをかけて少し眠らせる。その間、純はローテーブルで医療の勉強を始めた。主に医療用語や、薬剤の名前や用途、医療機器の事などを勉強していた。両親や志賀も純に色々と教えてくれるが、医師や看護師達も、必要なものの購入申請を出す時に丁寧に説明してくれるので純は助かっていた。
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