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純がサラダを食べていると、休憩室に後輩の内山 雛が飛び込んで来た。彼女は久坂と同期で『志賀派』、志賀の下で働いている。
「はっ、はっ、はぁっ、桃井先輩! 久利生様が来店されました」
「えっ、久利生さん? どうして? まだそんなに経ってないのに…」
「志賀先輩が、桃井先輩を呼んで来いって…」
「分かった。すぐ下りるわ」
純がそう言うと、内山はすぐに1階の店頭に戻って行った。
自社ビルの1階は、自社の物件や他社の物件を賃貸仲介する店舗になっている。2階は休憩室、3階は営業2課のオフィス、4階は営業1課のオフィス、5階は社長室や会議室になっている。
純は残ったサラダのフタを閉め袋に入れて立ち上がり、サンドウィッチの袋やコーヒーの紙コップをゴミ箱に捨てて言う。
「ごめん、久坂君、先に下りるね」
「はーい。お疲れ様でーす」
休憩室を出て急いでエレベーターに乗り、1階に下りる。スカートのポケットから社員証を出して首からかけ、給湯室に入る。中では内山がお茶を用意していた。
「内山さん、ありがとう」
「いえ…」
急用の為に用意されたマウスウォッシュでうがいし、サラダが入った袋を冷蔵庫の中に入れ、純は店頭に出る。
「あっ! 桃井さん!」
久利生が純に気づき、話し相手をしていた志賀が同時に振り向く。
「こんにちは」
純は笑顔で久利生に挨拶をし、志賀に声をかける。
「ありがとう。あとは私が」
「うんっ。頼む」
純がカウンターの席につくと、内山が久利生にお茶を出した。
「あ、ありがとう。外、暑かったから」
そう言ってグラスを取り、冷えたお茶をゴクゴクと飲んだ。
「今日はどうされたんですか?」
純が尋ねると、久利生は用件を話し始めた。
「今の部屋、借りてまだ3ヶ月だけど引っ越そうと思って」
「何かトラブルでも?」
「いや、そうじゃないんだ。もうすぐ駅前に建つマンションあるでしょ」
「えぇ、弊社の賃貸マンションですね」
「そう。そこの入居募集見てね、引っ越そうかと思ってるんだ」
「あぁ、そうでしたか。ありがとうございます」
純は話を聞いて、パソコンで物件を検索し画面に間取りなどを出す。画面を久利生の方へ向け、一緒に見ながら説明を始める。
「こちらは3パターンの間取りになっているのですが、久利生様はどちらをご希望ですか?」
久利生が純の方に少し近づくと、爽やかな香水の香りがした。久利生が笑顔で間取りを見ながら話す。
「ここはカウンターキッチンかぁ。まぁ、俺はあまり料理はしないけどね。リビングは広いね」
「はい。デザイナーズマンションになっているので、お洒落ですよ」
「今日、内見出来る?」
「はい、出来ますよ」
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