迷走中

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店に戻り、久利生をカウンター席に座らせ、純は契約に必要な書類を準備する。店頭には久坂が休憩から戻って来ていて、交代で志賀と内山が休憩に入っていた。カウンターには他に数人の客が物件を見に来ている。 「お待たせしました」 純が書類を持ち、久利生の前に座る。カウンターテーブルには、久利生が出した必要書類が置かれており、純は「失礼します」と言って書類に目を通す。 「ありがとうございます」 書類をクリアファイルに入れ、純は賃貸契約書を広げて話す。 「久利生様は、何階の部屋をご希望ですか?」 「そうだな。どうせなら最上階の15階かな。端の部屋じゃなくて見せてもらった部屋の上がいいな」 「では15階のこの間取りで、真ん中の部屋ですね」 テーブルにマンションの物件データや間取りの紙を並べて話す。 「うん。それでお願い」 「かしこまりました」 純は賃貸契約書にマンション名と部屋番号を記入し、間取りに関する項目にチェックをして、賃貸契約に関する説明を始める。いちから書類に印刷された事柄を読み上げ、順に説明していく。長い説明を終え、ようやく久利生に契約の署名と捺印をしてもらった。 「すみません。もう聞き飽きていると思いますけど……必要事項なので」 「ううん、大丈夫だよ。必要な事だと分かっているし、桃井さんなら何回でも 聞けるから」 「ありがとうございます」 久利生からペンと契約書を受け取り、記入漏れや間違いがないか確認して久利生の身元書類が入ったクリアケースに契約書を入れた。 「賃貸契約はこれで終了です」 「うん、ありがとう」 2人は立ち上がり、純が続けて話す。 「入居可能のご連絡と、鍵のお渡しのご連絡を致しますので、もうしばらくお待ち下さい」 「分かった。じゃ、連絡を待ってるよ」 「はい。ありがとうございます」 「ありがとう」 久利生が出入り口へ向かい、振り返って笑顔で純に手を振る。純はカウンターで微笑んで一礼し、久利生を見送る。店のドアが開いて久利生が出た瞬間、接客をしていない営業が一斉に「ありがとうございました」と声をかけた。 純が椅子に座ると、久坂が声をかける。 「先輩、お疲れ様です。今、だいぶん落ち着いて来たので、休憩してきていいですよ」 純は周りを見回し、久坂に返す。 「うん、ありがとう。じゃ少しだけ休憩させてもらうね」 「はい」 「久坂君、久利生様の件、入力頼める?」 書類を入れたクリアファイルを差し出し、純は立ち上がる。久坂がクリアファイルを受け取って答える。 「はい。分かりました」 「お願いね。あとで確認する」 そう言って純は、店の奥に入った。 店舗の外には出ないから、社員証は首にかけたまま給湯室に入り、冷蔵庫からサラダが入った袋を取ってエレベーターに向かう。2階の休憩室に行くと、休憩中の志賀と内山が、窓際のテーブルで向かい合って話していた。 「お疲れ様です」 純は2人に声をかけ、自販機に向かいコーヒーを買う。 「おぅ、お疲れ」 「お疲れ様です」 志賀と内山から挨拶が返って来る。
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