最後のお願い

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 アイスコーヒーとアイスティを空にしてから俺らは事故現場に向かう。言葉はなかった。事故現場に近づくほどに拓人さんの表情は強張る。  お姉さんにとっても拓人さんにとっても俺にとっても必要なことだ。歩みが遅くなる拓人さんの手を引いて俺はぐんぐんと進む。  事故現場にお姉さんは立っていた。その目に涙が溢れ出すのを俺は見逃さなった。 「拓人……」 「雪菜……」  お互いの名前を呼ぶ二人。 「また……会えたね……」 「ああ……」 「拓人さん、視えるのですか?」 「ああなぜか。視えたことなどないのに。きっと君のお陰だ」  声が詰まっているお姉さん。拓人さんは近付く。 「ごめん……。待たせた……」 「いいの。告白した日に死んじゃう私がいけないんだもの。恋人として過ごせなくてごめんね」 「雪菜が謝る必要はないんだ。君は何も悪くない」  拓人さんは雪菜さんを抱き締めようとするが、その手はすり抜ける。 「触ることはできないんだな……」 「うん。でもいいの。これで成仏できる。拓人好きだよ。健太くんもありがとう」  俺の目からも涙が溢れていた。俺は精一杯の強がりを口にする。 「好きな女のためにやったことだから気にすんな!」 「ありがとう……」  お姉さんはフッと消えた。多分もう二度と会うことはない。  拓人さんが声をかけてくる。 「健太くん、ありがとう。それでこれからも君と連絡をとっていいか? 雪菜とどんな話をしていたか知りたいし、恋敵として友人として俺に付き合ってくれないか?」 「いいよ。どうせ話し相手が一人いなくなったんだ。代わりにお姉さんの生きてた頃の話教えてよ」 「ああ。沢山話すよ」  二人で空を見上げる。恋敵として成立するはずもない恋の相手の行く場所だろうと思い描いた空を。 了
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