Fir.

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Fir.

 ピピピピ、とけたたましい音が鳴る。  腕を振り回すも全て不発の空振り。  憂さ晴らし気分で手を振り込むとビッと危ない音を出しながら目覚ましは鳴り止んだ。  寝ぼけ眼をこすり、焦点を合わせていく。  そこには、 「んぅ……ああぁぁっっ!目覚ましへしゃげてる!」  あまりに勢いよく叩きすぎたからか目覚まし時計は野球選手が投げたボールがバットにクリーンヒットしたときのボールに酷似した形状になっていた。  前にも同じことをしたがその時は目覚まし時計、使い物にならなかったよなぁ……。 「買い替えなきゃ、かなぁ」  外に出るのはどうも憂鬱だ。  日光は私の肌を容赦なく照り付けて焦げ焦げにしようとして来るし、周りの人間は私を奇異な視線で見てくる。 「さてさて、今日の予定は……」  今日何か外に予定があったら買いに行くか、と楽観的に考えつつスケジュールノートを開く。  今日のページを開くと、そこにはでかでかと 【9:30からコラボ配信についての打ち合わせ】  と記述されていた。  サビかけの機械の動くように首を動かしつつ時計を見る。  そこには、  きっちり、  9:00と、表示されていた。 「……オワったああああっ!」  その辺の喫茶店で落ち合う程度なら数分で済むが、集合地点は私の所属している事務所の本社。  ここから電車と徒歩含め15分程度の場所だ。  良くも悪くも今の格好は外着。今日見たくちょっとくらい寝坊してもいいよに、と着ていたものだ。  ならギリギリで間に合うじゃん。  そう皆様お思いでしょう?  残念私はそうあってほしかった。い、ち、ば、ん、私がそうあってほしいと思った。  こんな寝坊助な私、まさかの方向音痴のため今まで本社に行くとき誰かの付き添いがないと軽く40分かかるんですよ。  終わりですね、はい。  電話帳からマネージャーに電話をかける。 『もしもし、青木です!』 「青木マネージャっ、今日遅刻しますぅ」 『えぇ……もしかして今迷子ですか?』 「家です」 『はい?』 「わかりませんでした?今、家です」 『……貴女、今までの中で最短でここに着いたのは何分ですか?』 「え、40分強!」 『絶対間に合いませんじゃないですか!?』 「とりあえず駅で待っててくれない?マネージャがいたら何とかなるはずだから」 『あーっもう!わかりました!コラボ相手にはちゃんと説明しときますのでできる限り  迷わず焦らずその上で急いでこっちに来てくださいね!』 「マネージャちょっと要求多いよ~……」  ぶちっ、と荒めに電話を切らされる。  とりあえず家を飛び出して可能な限り遅刻した時間を短くするために走る。  幸か不幸か通勤ラッシュは外れているから比較的人は少ない電車に乗る。  私の最寄駅から上り電車で数駅過ぎた先に本社に最寄りの駅がある。  それまではぼーっと立っとこ、と扉に近い手すりの場所を確保した。
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