第一話 オニオングラタンスープ

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第一話 オニオングラタンスープ

王子が王都へと向かったその日の夜、私はマスターの部屋にいた。 王子は、スパイスのこと、それと依頼のこと。王宮へ行って調べなければわからないという事で王都へ向かったのだった。 私の役目は、アルドバール店の中の事を探るだけでそれ以外はほかの人の役目だ。 私はアリアさんにだけ、彼が行く前に行きたくないとこぼしていたことを話していた。 王子と出会った頃、アリアさんは、あまり詳しくないのだけれどこんな話をしてくれたことがあった。 彼は第二皇子と言われているが、本当は、前王の子で、今の王様の兄の子供。 ただ、王妃様との間に子供は生まれず、先に弟の方に子供が出来た、それが第一皇子だ。 前王、ウィリアムは病気で亡くなったとは言われてはいるが弟に殺されたのではないかと噂されているそうだ。 それは妻、マーガレットがこのままでは殺されると、自分の生まれ育った国へ手紙を出していたからだそうだ。エルが十歳になるまで母親は生きていた。 この辺境の地に送られて。 奥様もまた病で亡くなったと言われてはいるが、実際は王に殺されたようなものだそうだ。 様な物とは?と聞いた。 弟の妃、ジルベアは、この国の西隣、メルク王国の第三姫。この国、やばい国で、先代王は絶対婚姻は許さなかったのだそうだが、強引に婚姻したそうだ。 「私たちはメルクを注意深く監視していたんだけど、今の王になってそれは出来なくなったわ、王妃の陰謀で、マーガレットさまはお亡くなりになったと私たちは思っているの」 教会は、王様直結の隠密、政治的にも参入している。この領地に教会があるのは、王族がいるからだけではなく、そう言うのにかかわりがあったから、らしい。 辺境の地って言うけど、王都とは離れているの? 馬車で最低五日はかかるという。 まじでか、アーそうか、ここは異世界、飛行機も新幹線もないのだ。 じゃあ、王子が行きたくないって言ったのは、もしかして命の危険があるから? 「かもな」 と言ったのはケイルのおっちゃんの声にドキン、いつのまにか、私の隣にいて腕組みをしていたんです。 「マスター、やばいかも」 顔を上げたマスターの前になげた物。 巻物みたい。 「私はなんという事を!」と投げ捨てるように言ったマスターは、巻物を読んで声を出しのだ。 どうしたんですか? いやこっちのこと。 「三年前、城に賊が入った、わかるよなー」すみません、私です。 「ケイル!」 彼は手を上げマスターの声をさえぎりました。 「今頃になって、その罪は王子、それと、教会が悪いと言ってきやがった」 「は?なんで教会が?」 「ただの妬みだ、いいか、本来、この領地は辺境の地と言われてはいるが、元の王都はここだったんだ」 それが、父親の王が亡くなると国同士が近いほうがいいとかいいくさって今のマージェア領に王都が移ったんだ。あんな城が無防備に置かれた場所なんて、襲ってくれといわんばかりの平原に城を建てたんだ。王のためといいながらジルベアが金を出して建てた城。たぶんだがな兄王様が亡くなっておかしくなった元王妃と王子。何も知らない場所にぽんと置かれていったって、税収は上がらないから、王子を打ち首にして新しい領主を建てればそれでよかった、だがな、お前がしでかした。 「私?」 今や王都より、この領地が一番栄える結果となった、人の流れは王都より、まずはここ、旧王都、エルージュだ。 ・・・エル。 ここに王都を置いたのは、千五百年以上前、二十代前の王。王妃は北国の黒髪の魔女と呼ばれたヴァレッテリア。ここは、山に挟まれ、海を持つ国との境で、襲われても被害が少ないとあの高台に城を構え、街は外からの侵入者を判りやすくするため狭い道からでなければ入れないように関所を築いたそうだ。 ここは山と川だけで強固な城壁の役割をしていたはずなのだが、楽な平坦な場所がいいとわかると、戦いなどなかった国だからそっちへと移って行ったそうだ。だが結局小さな争いは起き、王様は操られ、メルクの言いなり。難民や孤児が流れているのはそのせいだというのです。 ここは先代の王たちが守ってきた、強固な場所だった。 マーガレットさまが来る前は、活気のある、今のような街だった。やる気のない王子、死を覚悟していたとしたら? 私悪いこと言っちゃった? 「まだ何をしたということはないが、まずいですね、非常にまずい」 なぜ? まず第一に、王子が殺されるかもしれない。 第二に、教会もこのままではいられない。第三に、税収が上がれば人は又流れる。 「あのー、アルドバール商店、それをわかっていたらどうですかね、お金を入れ、何か起きたら逃げる、そのつもりなのでは?」とアリアさん。あり得るの? ああそうだったと、ケイル様はあるものを私の手の中にたたきつけました。 なに? 紙のような物ですが、こっちの世界で使われる西洋紙のような茶色いがさがさの紙。それと私が撮った写真二枚。 「お前が話してたちょろまかしだ」 米を買ってきたときマスターに頼んで渡した控えとそのときに撮ってきた写真。 でも渡された紙には。 「さーて、お前が預けてきた銀二枚はどこへ行ったのでしょうか?」 ああ、頼んだ人が取った。 そういうこと、あの店はそれが常になっている、みんながしているからいいって感じな。 「まさか、私がお金を盗みやすかったのって」 たぶんだが、取りやすい場所、イコール自分の懐に入れやすい場所。騒いだところで足がつく、だから黙っている。 「悪いのみんなジャン」 「それを盗む人がもっと悪いのでは?」 アリアさんに怒られた。ごめんなさーい。
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