第八話 ネギパンとトーチー

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数時間後。 ガラガラと荷車の列が通ります。辺りを見回し人がいないのを確認、合図しながら進んでいきます。 あちこちから借りてきた荷車に次々モノが乗っていきます。 道の角々に立つ子供たちが行き先を示してくれます。 そしてその中にいた人が、一人はずれ、何かを話しました。向こうと指差す子の頭をなで走り出しました。 数人の人かげ、その中に泥で真っ白になった人が見えました。 大きな声は出せません。 「ルシアン!」 その声に体を出した人。 思わず手を伸ばし抱きしめた。 「あ、生きてた」 「当たり前だ!」 「ハハハ、生きてる」と背中を握る手が震えている。 腕の中の小動物を見ると、涙を流していた。 「来たよ、俺は生きてる」 うんうん言う彼女を抱きしめました。 そして、ルシアンは王子と出会い、ある人とその話を簡単にするのでした。 「後は任せろ」 「マストールはお任せください」 「それじゃあ明日朝、すぐにお願い」 「無茶するなよ」 「もう、真っ白、臭いからね、すぐに洗いなさいよ」 もう少し。 涙のあとが残るルシアンの顔をさすりながら二人はしばし、出会いをかみ締めていたのでした。 ここへ来るとき、男たちが話していた中で、マストール様のおかげという言葉を耳にした。 それが、財務長官マストール・マドルエルだとは、後で知ることになる。 その日のお昼はそりゃもうにぎやかで、時間は過ぎていたが、かえって食べられるわけじゃないから、今のうちにおなかいっぱい食べておくのだ。 食べているのは、ねぎパン。台湾料理のねぎ餅。 ベルが作り方を知っているので、小さな子達と体の大きな女性たちに頼んだのだ。 小麦粉をカップにすり切り二杯。 熱湯を注ぎながら箸とかへらで混ぜる。 カップ半分ぐらいで足りるけど、ゆるければ粉を足して足りなければお湯を足して、まとまってきたら手でこねる。 きれいに丸くなったら濡れぶきんをかけ一時間ほど置く。寒いからね、あったかければ三十分ほど、指を入れてムニューっとゆっくり入るくらいがベスト。 その間にねぎを刻む、長ネギでも、万能ねぎでも何でもいいよ。 手が開いている人は、スープ用のジャガイモの皮をむこう。 船の上で生活する子供たちに、ねぎパンの作り方を教えるのと引き換えに魚をいただきました。 泥にすむ魚、そう!ムツゴロウのような魚です、ちゃんと泥ヌキしてあるよ。 これでスープを作ります、もちろん肉の骨でだしをたっぷりとって傷んだ野菜もぶち込んでつくります。 さて、膨らんだパンは四等分にして今度は薄―く伸ばします。 面棒やビンなどを転がしてね、下の板が透けて見えるくらい。 そしたらごま油をタラリ、それを指でやさしく伸ばし、ねぎを一握り振り、塩を一つまみ、ぱらぱら。 ぱらぱら。 少し上からたたいて、パンの上を静かにもってきて半分ぐらい上でパタン、下からも持ってきてパタン、中央でパタンとしたら、端っこを持って、ねじねじ。 ねじねじ? 少し引っ張りながらねじねじ。 ねじねじ。 「うはー、おもしろい」 「今度はまくよ、こっちからくるくるまいて」 へびだ! 「横にするとはがれるからね、立てるとくっつくよ」 できた? できた、へび! とぐろを巻いたものができました。 それを薄く上から押し付けるようにして丸く広げます。 これを弱火で焼くだけです。 「いいにおいー」 「腹へルー」 小さな鍋に、真っ黒い豆が入っています。 子供たちは突いたりしています。 「あれ?食えるのか?」 鼻で笑って大丈夫よという。 カリーの時もだいぶ食べるまでに時間がかかったよな。 未知の食べ物ですもの、そりゃ警戒するわ。 「未知の食べ物だって?これは、トーチ―、豆の発酵食品だ、塩辛いが最高の調味料なんだよ」 へー。これには驚いた、中華食品のトーチ―がある、そう味噌が受け入れられたのもこれがあるおかげだ。 みその原点?絶対おいしいから、ほら、匂いを嗅いでみて。 匂い?あー、かすかに味噌の匂いするな。 でしょ。これで魚のスープを作る。 トーチ―は油と相性がいいから、香のでる野菜を先に炒め、トーチ―を入れて炒め、そこに水を入れ魚を入れ野菜を入れてひと煮たち。 「ハグ、ウメ、ネギパンウメ」 「スープ、おいしー!」 ハグ!ハグ! 落ち着いてだれもとらないから。 笑いがこぼれています。 日はかなり落ちてきました、食事が終われば迎えが着ます、中は見ないので、後はこの外からきている子たちに任せます。 私たちは、店に戻るともうひと仕事です。
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