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一方、お城の外では?
「ティルどこへ行く?」
「どこだっていいだろ?」
「よくないんだなー、今あんた出ていったら殺されるよ?」
「出て行ったおっかーのところに行くんだ、いいだろ?」
「そうかい、奥さんねー、あの世であんたを待っているんだろうねーかわいそうに」
「は?」
「子供さんも一緒にあの世であんたを恨みながら待ってるんだろうねー」
「どういうことだよ」
「知らねえの?あんたが悪いことをしてるから死んで詫びるんだって、もうこの世にはいねえよ」
「……う、うそだ」
「ウソだと思うなら、墓地に行って聞いてみるといい、みんなが止めたけど、間に合わなかったんだ」
「ああ、ほら、奥さんと子供が呼んでる、幽霊になってまで、あんたを、はー、けなげだねー」
ひー!
白く浮かぶ靄の向こう側で、手を振る女、子供の姿。
「き、きえた!どこだ!」
「さて、どこに行こうとしてた、聞かせてもらおうか?」
そしてもう一人
「チッ、下手に外に出ることもできないじゃないか」
「メイド長様、執事長が、王子のお部屋に来てほしいと」
「わかったわ」
何が王子の部屋よ、いまさら行ったところで、葬式の準備でもするのかしら?
トン、トン。
「ディールにございます」
「入りなさい」
失礼!
「どうした、入れ」
「おはいりなさい」
中にはぐるぐる巻きで転がっている三人、その先には今頃王都についているはずの王子がいるではありませんか!
はいれ。
後ろから声がして、振り返ると兵士の一人です。
中に押されると扉が閉められました。
「ドン、ドン、ドン!開門、ここを開けろ、王命である、すぐにここを開け―!」
ベルはバタバタとワザと足音を立て、店主の部屋を捜し歩きました。
大人達が口伝えでやっと店主へその事を伝えます。
は?なんだって?
「急いで働いている物を番頭の所へ、早く!」
一方他の所にも広がり驚いていきます。
王命だと。
何だと!
ですが、何も知らない物が扉を開けてしまいました。
扉を開けるとそこに並ぶグットマンたちと兵士たち、そして、マスターとシスターブラザーが店を囲んでいます。
「はあ、はあ、こんな朝早くに何事ですか?」と番頭がやっと扉から顔を出した。
「今朝こんなものが投げ入れられた、詳細を調べたいので入るぞ!」
は?
ネズミの絵?
お前の所にも来てはおらんか?お前の寝ていたそばに落ちてはいないか?
「ネズミ?悪事はル・ラータがすべておみとおし?成敗!」
「ル・ラータ!」
アルドバール店主は転がるように寝室へ行くと、そこで震えている女、その女が見る先には。
壁一面に書かれたネズミの絵、ル・ラータ参上!
「や、やられた?いやまだだ!」
男は走り出しました。ですが蔵の前にはさほど多くない人たち。
そして奥から聞こえる、歩け、ここから出て、という声が聞こえます。
ベルはその様子を見てこういいました。
「ハハハ、やってくれたぜ、ありゃ、マルコだ」
透明なクモの糸を大きな、大きな布にして、その上に鼠の絵をかいた物を広げただけ。
でもいつ?
ベルは走り出した、やったのはルシアンだ。そう思ったからでした。
さあて、宝物蔵はどうなったかな?楽しみ、楽しみ!
「さあ、蔵を開けてください、昨日見せていただいた物が無くなっているかも知れないのですよ」
さあ!さあ!
店主は渋々蔵をあけました。
何も変わりはないはず。明かりを中へ向けた時です。
「なんだか昨日と様子が違いますね?」
中に入ろうとするグッドマンたちを押さえることもできぬまま店主はそこへ座り込んだのです。
「はは、おわったー」
がっくし。
入り組んだ屋敷は税金逃れのためでしたが、これも全部調査対象。グッドマンたちは梯子をもってきて、あちこちの屋根の上から見て、敷地の大きさなどを突き付け、蔵の中にある粉、薬などの追加税などが言い渡され、はらえるわけもなく、屋敷は差し押さえとなりました。
「言い逃れできぬな」
「……はい」
「ひったて!」
そしてこちらは。
「ここは誰の家だ?」
「ヘイ私の」
「ほう、すごいお宝だな」
「へ?ええー!!!」
「隊長、これ、見てください」
「ほう、これは、王都にある店から出ている盗まれたものの用だな?ん!自分の店の印では無い物が入った壺のようだな、お前、盗賊の手下だな、ひっとらえろ!」
倉庫の方は、ベリシュール商会の男たちが捕まったことで店にも火の子が飛び、次々掴まっていったのです。
「すごいらくがきだな」
え?と見た、蔵の前、大きな壁一面に書かれたネズミの絵に、男は座り込んだそうです。
私たちも事情聴取を受けました。
そして、口減らしで売られてきた子たちは、その証文も書き換えられている可能性があるとかで、みんなが一度、解放されることになってしまったんです。
行き場がない人たちですが、そこはマスターが、ここにいてもいいという事を言いました、ただし、蔵の中にこの屋敷のすべてを運び出し、空にするのが条件です。
みんなはそんなことならばと喜んで手伝うことになったのです。
「マスター様、お願いがあります」
大人たちは、食べるものだけでも分けてほしいと頼みました。
マスターは十分なものを渡し、外から野菜などを売りに来るものから買い物もしてやったのでした。
私たちの役目はこれで終わり。
迎えに来た人たちに連れていかれる様子を見ていた子たちが、どこへ連れていくのだと泣いてくれました。
ごめんね、またどこかで会いましょう。
「ルシアン!」
「おねえちゃん!」
マシューとアンです。二人は文字がすこしだけ読めるという事であるものを渡しました。
「これ、私が書いたの、よければこれの通りに作ってみて、マシュー、もっとみんなが笑顔になる料理人になってね。アンも元気で、ありがとう」
「ルシアン!」
「私も生きる、がんばろうね」
「うん!またどこかで!」
「ありがとう!」
「さよなら」
私たちは大人たちに頭を下げ、マスターたちとともに帰ってきたのでした。
「ル・ラータが出たんだってよ」
聞いた聞いた、なんでもベリシュール商会、盗賊団一味だったんだってな。
でも、なんで、アルドバール商店とベリシュール商会だったんだ?
聞いた話だがよ。
一夜にして、蔵の中身が入れ替わったんだとよ。
入れ替わった?
一方の蔵の中には金銀財宝、でもこっちは穀物商そんなのは税金がかからねえらしい、穀物蔵には宝石ばかりだったのが次の日、蔵には、麦や、薬になるもんがぎっしりだったんだと。
そこに来たグッドマンがなんだこれはという事で、差し押さえになったんだと。
ル・ラータは何を盗んだんだ?
入れ替えただけだろ?
でもな、残っているものもいる、下働きたちだ、そいつらは晴れて自由。
もらえなかった給金もついてきたって話だ。
そりゃよかったな。
それだけじゃねえぞ、その店は今度は王子のものになって、そいつらはそのまま働けるっていうんだ、いい話だろ?
ああ、結局何を盗んだんだ?
全部さ。
全部?
アルドバール商店、ベリシュール商会という店、屋敷、働いていたものまで全て盗んじまったのさ。
へー。
全ては終わったかのように思えたのですが、私の知らないことが起きていました、それは第一皇子たち家族です。
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