第九話 隣の領地とぶどうジュース

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今度の旅は当てもなくさまよった四年前とは違い、ちゃんと目的があります。 路銀も十分、いろんなものもたくさん持ってきています。 馬車の中にはこの子たちが考えた精一杯の物でしょう、大鍋とか一式も入っていて、どこでもスープ屋を始められそうです。 「あー、うー」 「そうね、鳥さんね、ほら、あそこにも何かいる」 馬車の旅は、快適で、楽しいものになればいいなと思っています。 まずは一番近いマッシュ領の中心の町、カルクへと向かいます。 みんな元気かな? 元気よ。 何でいえる? 元気な時とか、かわり映えしない時って便りはないものなの、ただ困ったことが起きれば、その時は助けてほしいって言ってくるものなのよ、人を使ってでもね。 「なあ、あの時のお城、使ってんだろ?」 「そうだってきいてるわ?どうして?」 「いや、どうなってるのかなーって」 「どうなってるのかしらね、楽しみだわ」 「セシルは居酒屋やってるの?」 「そうきいてる」 「いったらおどろくだろうなー」 「驚かそうぜ!イヒヒヒ」 「クモは使っちゃだめだからね」 そんなことしないもん! あの時?そう、お酒を盗んだ時のことを話しています。 エードのお城の地下にあったのはワイン蔵だと思いました。 大きな樽がきれいに並んでいました。 おいしいのかと思いきや、さほどおいしくなくて、何でこんなものと思ったら、運ぶ間に味が変わるそうです。だからまずくてもいい、運んだ先で熟成させればそこでおいしいのが出来ればいいそうなのです。という事はブドウジュース?これは使えるかも? その時は、まだ王都のある酒屋に売るという情報しかありませんでした。 まあ、困るのは酒を造っていたエードだけなので、苦しめるのには最適だったのです。 酒屋の主人も、エードと同じで、使っている人はまるで奴隷のよう。 大人ならまだしも、子供を使っていて、お酒に酔っぱらったまま仕事をさせていたんです。もう、死ねって思っちゃった。 「でもあれは楽しかったな」 「運ぶのは大変だったじょ!」 「壮観だったぜ、ジャバーッてすげー勢いで出て来たのをさ、三角に並んでる樽の一番上からドバドバ入れるとドンドン下に流れて入って行くのを見るのも楽しかった」 「城の中ばっかりさがしたって無駄ってわかなんいもんかね?」 その時はわからなかったんでしょ、あんなにお城の壁一面に堂々と並べた樽に気が付かないのもどうかと思うわよね。 案外そう言うものなのよ。 「あの後のブドウジュースは美味かった」 「今じゃ名産品だもんな」 「そりゃお酒を飲めるのは大人だし、子供にあの味はないわ」 だな。 魔物の腸をホースがわりにして、お城の周りにあった古い樽を蜘蛛たちにガードさせ、中に入れても壊れないようにしたんです。 あまりにひどいものはカモフラージュにして、蛇口の付いた樽や、ないものは、ふたにしてあるコルクを取ればいいだけで、後は、人力でシュポシュポ。 朝までにブドウ汁は無くなった。 大騒ぎする人たちが収まるまで、見張りを立てておいた。 誰もそこにブドウ汁があるなんて気が付いていない。 まあ持ってくるのは簡単にはいかないから、日を置き、忘れた頃に運び入れた、ジュースとしてね。 そして、酒屋の方は簡単、空き瓶とすり替えただけ。 だって教会には沢山、お酒のビンや樽が積んであったんですもの。 おいしいものをごちそうすると言って店の中のお酒を空にしてしまえばいいだけよ。 「ねえ、またするの?」 「んー、したくないけど、何かあったら考えるわ」 「ウシシシ、どんなお宝があるのか楽しみ」 「ベル、お前すげー悪い顔してる」 「セルだってー」 今度はさ、と二人悪巧みはしないでよね。 「そろそろ街の門だぞ」 「今度は金をとられなくて済む」 「これがあるからな」 「なくさないでよー」 「なくすか」 結構賑わっています、それと難民は、いいようね、さほど見かけません。 「うまくやってるみたいだな」 「ええ、セシルに頼んでよかったわ」
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