何億光年も経てば忘れかけてしまうベテルギウス的な話

1/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「私、月からやってきたの」 頭の上のウサギ耳がそう言うと垂れた。 「ヘぇ〜そうか」 僕は安倍晴明風にアレンジした衣装でカメラを連写した。 撮影会に集まった十人はあらかじめプロフィールを確認して気が合いそうな者たちで集まった。 この集まりのどこに中心があってどのような趣向でという訳でもないのだけれど、なんとなくここの撮影所に撮影したいプレイヤーが集まるのだ。 だから『月から来た』みたいな不思議ちゃんは珍しくもなく、むしろ撮影欲を駆り立てるのにとても重宝な言葉だ。 でもそんな言葉がなくても今日偶然あったこの子は自分好みのタレントに似ていてとてもツイていた。 「今日は沢山取らせもらってありがとう」 そう言うと少し恥ずかしそうに「いえいえ」 と目も合わさず言うと着ぐるみのモコモコした白い腕を外していく。 その時も僕を意識してか耳をピクピクって動かしている。 完全に付け耳なのに何だか『本物』の耳のような錯覚に陥ったが「上手に耳作ったよね」もう一度声を掛けて誤魔化した。 「いえいえ」今度は何故か本当に困ったような素振りで仕切りのカーテンを引くと 「これ、本物だもん」とやっと届くような声で言っている。 そんな冗談が返って来るとはつゆも思わず 「ご飯でも奢ろうか」とちょっと突っ込んだくだりに持ち込みたいのをグッと堪らえてその場を去った。 そうでないと今度あった時互いに気まずい思いをするのではないかと思ったからだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!