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木枯らしの吹きぬける駐車場を通りすぎると、高木響矢(たかぎきょうや)は慣れた仕草でネクタイをゆるめた。通いなれているとは言っても、この辺りは工場や倉庫ばかりだ。スーツ姿の自分が浮いていることには、いつまでも慣れないでいた。 気持ちばかりのラフさを首もとに演出し、ひとつため息をつく。こんなことくらいでは、埋めることのできない隔たりがある。気楽に会えていたあの頃が懐かしかった。 事務所前に停められたトラックの陰をのぞく。運が良ければ、そこで出荷作業している友人を見つけることができるのだ。 「お……いた」 「あ、高木ぃ」 今日はラッキーだった。 学生時代から変わらないやや長めの髪は、相変わらず明るく染められている。ざっくりとタオルを巻いて後ろでしばっているけれど、ぴょこんと跳ねた毛先が見える。 「これ積んだら上がるから、待っててくれるぅ?」 「いいの? まだ終業時間じゃないでしょ?」 「いいのいいのー。俺、御曹司だからぁ」 椎ノ木悟(しいのきさとる)は、そう言って白い歯を見せた。相変わらずの間延びしたしゃべり方だ。大学を卒業して家業の漬物屋を手伝っている彼は、本人の言うとおり、たしかに御曹司なのだけれど……。 漬物独特のにおいのする作業着と自分のブランドスーツを見比べ、高木は苦笑した。御曹司ってガラじゃない。どちらかと言えば自分のほうがそれに近い。このスーツは、外資系化粧品会社に就職し、営業マンとして働く自分の鎧だ。
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