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「おまたせー」 普段着に着替えた椎ノ木は、ひょこひょこと弾むような歩き方で、こちらにやってきた。 「ホントにいいの?」 「いいのいいのー。どこ行く?」 いくら日が短くなってきたと言ったって、まだ飲みに出かけるような時間ではない。高木は飲食店のレパートリーを頭の中で展開しながら、難しい顔をした。 営業に回るうち、付き合いも増えた。遊び回っていた学生時代には考えられなかった、格式の高い店にも出入りするようになった。 ――学生時代。高木は遠い目で振り返る。 日没後は、椎ノ木と過ごすことが多かった。大学がちがうにも関わらず、呼び出し呼び出されしていた日々。二人ともそれぞれの大学のテニスサークルに所属し、最終的にはキャプテンをつとめた。 お互い、見た目だけで言えば、スポーツに打ち込むタイプではない。どちらかと言えば、イベント系のサークルで日々コンパに明け暮れていそうな大学生だった。高木は自分の長めの前髪を、上目づかいにちらりと見た。就職と同時に濃い色に染めたときの、椎ノ木の顔が忘れられない。 「なんか遠くに行っちゃうみたいだなぁ」 そうつぶやいた椎ノ木の瞳に、小波が見えた。 「変わんないって。中身は今までどおりだよ」 笑い流したけれど、強く思った。 このままでいたい、変わりたくない、と。
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