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乾杯のビールジョッキを合わせると、二人とも息もつかずに半分をあけた。結局、学生時代に通っていた居酒屋に入った。慣れた空間に、いつものつまみが並んでいる。
「このだし巻き、だし加減が絶妙なんだよねぇ」
「だし加減、って。もっとおいしそうな言い方ないの?」
「うーん、マイルドな口当たりぃ、とか? 似合わないねー」
「うん、似合わない。椎ノ木に料理コメントは無理だね」
「俺、食い物屋だよ? やめてくれるぅ?」
「食い物屋って」
ビールをぐいぐい空けながら、軽口で笑いあう。何を話していても、楽しいだなんて。この関係を失いたくない。椎ノ木は貴重な親友だ。
「仕事終わりのビール、最高ー」
親指で口元の泡をぬぐう椎ノ木。男にしてはぽってりとしたくちびるだ。それを目で追いながら、高木は相槌をうつ。
「まぁね。でも、運動終わりもうまかったでしょ?」
「うん、試合のあとは特にね。お前らに勝ったあとは格別だった!」
「負けたことなんてあったっけ?」
「あるでしょぉ一回くらいー」
ほんの2、3年前のことなのに、お互いに声に懐かしさがにじむ。
「俺、次もビールね、高木もぉ?」
「あ、うん」
「オッケ。すみませぇーん」
手際よく店員を呼ぶ椎ノ木を横目に、まだ抜けないのかな、と高木は思う。椎ノ木は、根っからのキャプテン気質だ。見た目に反して気が利くし、まわりをよく見ている。同じキャプテンの立場だったのにな。椎ノ木といるとそれを忘れて依存してしまいそうになる自分を、高木はとうの昔に自覚していた。
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