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***** 雪のにおいがする。しんと冷えた空気に、吐き出した白い息が溶ける。大学3年生の高木は、ダッフルコートの襟元をぐいっと引き上げた。 夏でサークルを引退してから、あきらかに飲み会は増えた。週末と言えば試合が入ることが多かった。同時に飲み会の誘惑も週末に多かったのだけれど、特にキャプテンをつとめていた最後の1年間は、試合前日に深酒をすることは控えていた。 そんな週末の今夜も、学部の仲間と宅飲みをしていたがところだった。ほんのりと酔いが回りはじめたころ、携帯が鳴った。 『今駅前にいるんだけどさぁ……』 着信の相手を確認した時点で、用件はわかっていた。それから、その後自分がどう行動するのかも。 「高木も飲んでたのぉ?」 駅前の明るすぎる照明に照らされた椎ノ木が、ご機嫌で手をひらひらさせている。こんなふうに呼び出されることには、すっかり慣れてしまっていた。 「飲んでたよ。いいところだったのに邪魔してくれちゃって」 「え、コンパだった? まさかのお持ち帰り妨害ぃ?」 「……そんなとこ」 本当はちがうのだけれど、少しくらい恩を売っておいてもいいような気がした。特に相談するでもなく並んで歩きはじめる二人。飲み足りないから呼び出されるのか、酔うと高木の顔が見たくなるのか、そのどちらでもないのか。訊いたことはないし、その必要もないと高木は思っていた。
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