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居酒屋を出たところで少し立ち話をしていたら、背中から声をかけられた。 「二人同士ってことで、カラオケにでも行かない?」 会社帰りのOL風な二人連れだった。コートの下は、スーツとまではいかなくてもコンサバにまとめてある。二人とも、ヒールの細いパンプスが心細く見える程度には、酔っているみたいだった。 断る理由もなかったので、酔いにまかせてカラオケボックスに入った。高木も椎ノ木も、女慣れ、コンパ慣れしている。着席した時点で、それぞれの今夜送る女は決まっていた。 いつものコンパのノリで盛り上げる椎ノ木。ハイトーンの美声でしっとりと歌い上げる高木。彼女たちも、これは声をかけて当たりだったと思っているにちがいない。 ほろ酔い気分にアルコールを追加し、高木は少しテンションを上げた。向かいでは椎ノ木が、女の耳に何かささやいている。 隣で歌う女の子に、タンバリンで合いの手を入れると、マイクを渡された。一緒に歌えってことか。高木は立ち上がり、裏声を使って盛り上げた。歌い終わってソファにもたれる。少し疲れた。 「ねぇ、椎ノ木くんのくちびるってかわいくない?」 椎ノ木サイドに座っている女が、隣で歌う口元をのぞき込みながら言うのが聞こえた。 「私も思ってたー。なんかキスうまそうだよね?」 高木のそばから、共感の声が飛ぶ。ふたりで盛り上がっているところに、一曲歌い終わった椎ノ木本人が加わった。 「たらこくちびるって言われるけどねー。うまいかどうか、試してみるぅ?」 「えーやだぁ」 「でもほんとにうまそうー」 キャッキャと大げさにはしゃぐ女たちを、高木はなんとなく面白くない気持ちで眺めていた。
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