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「やわらかそうだしねー」 「ぷにって感じ。触ってみたーい」 「えー、指でいいのぉ?」 なんだって、こんな初対面の女に……。イラッときた高木は、テーブルにバン! と手をついた。そして、 「だったら俺が試してあげる!」 「……えっ……っ!」 ぐいっと勢いよく椎ノ木の頭を抱き寄せ、そのくちびるを奪った。息を飲む女性陣に気をよくした高木は、目だけでニヤリと笑う。せっかくだから、見せつけてやろう。 二度三度と角度を変え、最後にあま噛みした瞬間、椎ノ木と目が合った。当然乗ってくれているものだとばかり思っていた。けれど、その瞳は無表情にこちらを見据えたままだ。 ビクッとして、そっと身体を引いた。声が出ない。そんな高木の目を見据え、椎ノ木がぼそりとつぶやいた。 「……マジになんないでねぇ?」 「……!」 声は軽い調子だったけれど、目が笑っていない。一瞬でカッと頭に血が上った。 マジ……、に……? 「こんなの楽勝だってぇ。俺ら親友だもーん」 わざとらしく高木の肩を抱き、へラッと言ってのけた椎ノ木の言葉が、やけに胸に痛かった。この痛みの原因はなんだろう。考えてはいけない気がする。高木は慌てて、そばにあったチューハイを飲み干した。 動揺する高木をよそに、椎ノ木は選曲をはじめた。しばらくすると、キャッキャとはしゃぐ女の子の声も聞こえてきた。上辺だけの表情をはりつけたまま、高木はなんとかその場を乗り切った。 グラスのチューハイをコトリと置き、くちびるを拭う。まだ消えない感触に、動悸がする。 マジになるなと言った椎ノ木の、真剣な瞳にやられた。いや、さっきやられたのではない。きっとずっと前から……。 気づいてしまった感情に、めまいがした。本気になるなと言われた瞬間に、本気だったことに気づくなんて。 自分自身も把握していなかったこの想いに、椎ノ木は気がついていたにちがいない。それで、釘を刺したのだ。なんて聡い奴なんだろう。
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